
大前研一|世界最強の国家「EU」から学ぶべきこと
大前研一の日本のカラクリ
21世紀初頭が過ぎようとしている現段階で、世界最強はアメリカでも中国でもない。
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長 大前研一/小川 剛=構成 加藤雅昭=撮影
民族問題をも呑み込むEU拡大のダイナミズム
たとえば地中海に浮かぶキプロス島は、1974年の内戦以来、ギリシャ系の南キプロス(キプロス共和国)とトルコ系の北キプロス(北キプロス・トルコ共和国)に分断されてきた。
合法政府である南キプロスは2004年にEUに加盟、今年から単一通貨のユーロも導入している。しかし、国際的にトルコだけが独立を承認している北キプロスは、ギリシャの反対もあって加入していない。
もともと北は南に比べて経済発展が遅れていた。南キプロスのEU加盟で経済格差はさらに拡大したが、現在はそれがキプロス再統一の原動力になった。統一キプロスになれば北もEU加盟の恩恵にあずかれるということで、統一に向けた南北の話し合いが始まったのだ。北キプロスの背後にいるトルコも、自らのEU加盟を見据えて、余計な干渉をしないという姿勢を見せている。
このようにEU拡大のダイナミズムは、ヨーロッパの民族問題や地域紛争にも多大な影響を及ぼしている。特徴的なのがコソボとセルビアの関係だ。旧ユーゴスラビアでは、セルビアの自治州だったコソボが今年2月にセルビアからの独立を宣言、国連常任理事国ではアメリカ、イギリス、フランスがいち早く承認した(日本も3月に承認)。
その一方、セルビア政府は自分たちの血を流してでもコソボの分離独立を認めないと主張してきたが、コソボ独立を認めたらセルビアのEU入りを歓迎するというEUからのそよ風が吹き込まれると、7月の総選挙では優勢のはずだった民族主義勢力が敗北、EU加盟推進派の親欧政権が誕生した。
旧ユーゴは現在、スロベニア、クロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、コソボの7つの国家に分かれている。このうちスロベニアは04年にEUに加盟、通貨もユーロが認められて若干インフレ気味ではあるが、まずまずの経済成長を見せてEUの優等生と呼ばれている。クロアチアも本格的な加盟交渉が始まった。和平と民主化が遅れた残りの5カ国については、いずれも加盟候補国として順次交渉のテーブルにつくことになるだろう。
中欧、東欧、南欧の国々がEU入りを目指すのはなぜか。活動が制限されてきた旧共産国の場合、人もモノも金も自由に動けるEUパスポートが喉から手が出るほど欲しいというのが1つ。もう1つは、人口の少ない国でもEUのフレームワークの中でなら、独立した国家としてやっていけるからだ。
EUで繁栄している国を見ると、北欧諸国は人口500万~900万人程度だし、スロベニアは200万人の小国。それでも周辺の大国に脅かされることなく、独立国として尊敬されている。つまりEUという「より大きな支配機構」に下駄を預けるシステムの中であれば、小さなユニットの国でも“国家”を張れる。均衡策により貧しい地域にはEUから補助金が出るし、国防もNATOに任せてしまえばいいのだ。
大前 研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾
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