
大前研一|世界最強の国家「EU」から学ぶべきこと
大前研一の日本のカラクリ
21世紀初頭が過ぎようとしている現段階で、世界最強はアメリカでも中国でもない。
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長 大前研一/小川 剛=構成 加藤雅昭=撮影
トルコやロシアもいずれEU加盟国に!
こうした仕掛けが求心力となって、EUの東方展開は加速され、合わせて産業も東に移ってきている。07年にルーマニアとブルガリアがEUに新規加盟したが、これでヨーロッパの中国恐怖症は克服された。
ルーマニアやブルガリアの労働コストは、中国の労働コストとほぼ同じ。輸送コストや言葉の問題、教育水準やマネジメントの利点を加味すれば、これら新規加盟国に軍配が上がる。中国に比べてコストで遜色がないし、品質ではまさにイタリアなどのブランド物を難なくこなすのである。
EUの展開以上のスピードで東に広がっているのが共通通貨のユーロだ。
現在、EUの域内交易は7割ある。つまり交易の7割がユーロによる決済ということだ。これは立派な国内経済である。そして、ユーロで決済していれば、ユーロ高の影響は受けない。ということで、EUに新規加盟しながらまだユーロを導入していないハンガリーやチェコ、ポーランドとの交易の決済や労働賃金の交渉もユーロで行われている。
EU27カ国中、実際にユーロを導入しているのは15カ国。しかし通貨圏という意味では中欧・東欧諸国もすでにユーロ圏に含まれる。最近はロシアもそこに入ってきて、石油や天然ガスの代金を目減りするドルではなくユーロでの支払いを求めるようになった。ユーロの実質的な支配圏は、隣国ロシアにまで達しているのだ。
今から12年後の2020年を想定したとき、EUの東方展開はイスラム国家のトルコを超えてロシアにまで達している可能性が強い。世界一の経済圏を構築しているのは間違いないだろう。世界第2位の経済国家はアメリカで、3位は中国。日本はうまくいって4位。成長速度と為替(ルピー)次第では、インドに抜かれている可能性もある。
日本の人口は減る一方だし、EU的な経済圏を構想する器量もないのだから仕方がないが、問題は世界の巨大な経済圏、経済国家とどう向き合っていくかだ。
日本のグローバル企業は市場の約7割がすでに国外にあり、グローバル経済の中で生き残るしか道はない、ということをよく知っている。中国やEUが著しく台頭してくるこれからの時代は、今までのようなアメリカ市場一辺倒では通用しないのだ。冷戦下の世界観から抜け出し、21世紀最大の国家はEUであるという世界観に立って戦略を見直すべきだろう。
その1つの重要なスタートラインになるのが、EUに日本も入れるのか、という思考実験だと私は考える。結論から言えば、日本はEUには入れる可能性はあるが、今のままでは入れない。
EUに入るためには、財政赤字はGDPの3%以内に抑えるとか、GDPの60%以上の累積債務を出してはいけないという条件がある。EUの加入条件のうち、日本が満たしているのはインフレ率だけ。イラクで戦費がかさんだら国債の輪転機を回し放題のアメリカや、景気が悪くなったら簡単に赤字国債を出して補正予算を組むような日本はとてもEUには入れない。
ユーロがなぜ信任され、EUという知的国家がどうして機能しているのか。最大の理由は、皆で決めた規律を皆が守ろうと努力しているからだ。その考察が日本人には足りない。EU諸国に課せられているハードルを日本もクリアできるようにしなければ、世界経済の厳しい現実の中で淘汰されてしまうだろう。
大前 研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾
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