実践ビジネススクール
2008年 10月 2日

大前研一|世界最強の国家「EU」から学ぶべきこと

大前研一の日本のカラクリ

21世紀初頭が過ぎようとしている現段階で、世界最強はアメリカでも中国でもない。

21世紀の最強国家は米国でも中国でもない

 21世紀、世界最強の国家はどこか。10年前にこう問われたら、世界の多くの人々はアメリカと中国が世界を二分する未来図を思い描いただろう。

しかし、21世紀初頭が過ぎようとしている現段階で、世界最強はアメリカでも中国でもない。東方展開で中欧・東欧を呑み込んで巨大化し、今や加盟27カ国、域内人口4億人、GDPでアメリカを30%も凌駕する経済圏を誇るEUが、事実上の世界最強国家である。

無論、EUは単一国家ではない。しかし、そこには国境があり、独自の通貨があり、軍隊がある。ヨーロッパ憲法となる予定のリスボン条約の締結は、アイルランドの国民投票で否決されたために滞っているが、現状でも憲法に等しいEU憲章があるし、EU議会も持っている。

いずれ大統領や外務大臣も選ばれるだろうし、加盟国の国内のルールとEUのルールが齟齬をきたした場合には、EUのルールが優先することに合意した国しかEUに加盟できない仕組みになっている。つまり、単なる国家連合ではなく、統治機構として機能しているのだ。私はUCLAで公共政策論の講義をしていたときに国家の定義について教えていたが、実効支配、明確な国境、法律による統治、独自通貨の発行といった国家の持つべき学問的な定義をEUはすべて満たしている。

そう考えたときに、21世紀最大の国家こそEUであるという世界観が出てくる。しかも驚くべきは、EUが人類史上初の話し合いとルールだけで形成された国家であるということだ。

アレキサンダー大王の古代マケドニア以降、神聖ローマ帝国にせよ、ビザンチン帝国にせよ、ヨーロッパの巨大国家は戦争によって国境線を広げてきた。しかしEUは軍事力に拠らず、話し合いによって“統合”を進めてきた。

Web2.0は集合知の世界と言われるが、EUはまさに集合知の結晶といえる。ローマ条約以来、紛争に明け暮れたヨーロッパは、数々の条約を生み出し難問を突破してきた。特に通貨euro(ユーロ)と中央銀行(ECB)創設を定めた、マーストリヒト条約の策定で中心的な役割を担ったのは学者。国益に引きずられる政治家ではなく、学者の話し合いで決められたシビアなルールに則って、EUは拡大してきたのだ。

このルールに従うという必要条件と、加盟国の話し合いによる承認という十分条件が揃わなければ、EU加盟は認められない。だから、どこかの国が反対すれば加盟できない場合もある。

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プロフィール

大前 研一

ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長

1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾

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