
既得権益を壊す「宝塚式」人事戦略
新しい技術がどんどん開発され、ビジネス環境もスピードを増して変化していく。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 石倉洋子/大熊文子=構成
経営者も「生活を向上させる新しい商品やサービスを世に送りだし、継続的に利益を出す」という企業の使命を全うするために、「この事業に見切りをつけないと会社全体が揺らぐ」「この人に辞めてもらわなければ、組織革新は実現できない」と見なしたら腹を括って「これ以上わが社にとどまるより、他の会社と一緒になって、事業の可能性を追求してくれ」「新しいビジョンに賛成し、その実現に努力できないなら、辞めてくれ」と、きっぱりと切り出さなければならないのだ。駄目になるのがわかっているのに、見捨てられない経営者は失格だといえる。
いち早く手をつけるか、どうしようもなくなるまで先送りするかはトップの考えと力量にかかっている。やっと重い腰を上げたはいいが、そのときにはすでに遅く、市場から退場せざるをえなくなった企業の事例はいくらでもある。
例えば、10年前と同じ看板で営業している銀行はいくつあるだろうか。銀行に限らず、世界競争にさらされた中で生き延びるには、事業部の売却・買収、会社の合併などをダイナミックに進めなければならない。
3年ごとに社員を異動させる人事制度
ダイナミックな目標を設定したなら、目標達成のために時代の変化に迅速に対応できる組織面でのイノベーションにも着手すべきだ。組織は、水と同じで、入れかわりがないと、淀み始める。意識的に手を入れなければ、硬直化することは避けられない。
企業が市場の変化を的確に取り入れ、事象に柔軟に対応するためには、社員をなるべく多彩な環境の新しい経験に触れさせ、常に新しい風を送り込む人事制度を構築することだ。
そもそも人は同じ環境にいるとチャレンジを怠るという習性を持っている。1つの部署に3年いると、仕事をすっかり覚え、決まったパターンで仕事をこなすようになってしまう。世の変化はめまぐるしい。だからこそ、仕事のやり方を常に革新していくべきなのだ。
あるアパレル小売業者は、社員を3年ごとにローテーションさせ、次々と異なる職務を担当させている。仮に3年後に古巣に戻ってきても、業務の内容も規模も進化しているので以前のやり方は通用しない。それによって、社員は世の中の変化を実感するし、仕事は革新していくものだと認識する。それが、社員にとって非常にいい刺激になる。この企業の成長の秘訣は、まさにこの人事制度にある。
1つの職務だけに携わっていると、ものの見方も発想も乏しくなる。ある経営者がこんなことを言っていた。
「社会になかった新しい価値を提供しようと毎日必ず1つ新しいアイデアを出すことを自らに課していたら、1週間で行き詰まってしまった」と。
石倉 洋子
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
いしくら・ようこ●上智大学外国語学部英語学科卒業。フリーの通訳等を経て1980年、バージニア大学大学院にてMBA取得。85年日本人女性として初めてハーバードビジネススクールの経営学博士号(DBA)取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、青山学院大学勤務を経て現職。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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