
既得権益を壊す「宝塚式」人事戦略
新しい技術がどんどん開発され、ビジネス環境もスピードを増して変化していく。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 石倉洋子/大熊文子=構成
全く新しい発想はそうそう生まれてくるものではない。世間で言われる“新しい価値”“新しいサービス”の多くが、実は既存アイデアの組み合わせ、並べ替え、ある分野では当たり前のことを別の分野に応用することから生まれるのだ。しかし、自分自身いろいろなことを実際にやった多彩な経験がなければ、組み合わすことすらできない。例えば、転職や留学、海外生活は見方を広げる経験の1つになる。企業内でも、違う“場所”、数多くの“事業”に従事すること、営業、人事、企画など異なる“機能”に従事することによって、経験が多彩になる。
私には転職経験があるが、新しい会社へ行くとそれまでとは全く異なる方法で仕事を進めているという事実に直面する。すると、どうしてこういうやり方を採用しているのか、なぜ以前の会社ではあのようなやり方をしていたのだろうか、という疑問がわいてくる。異なる経験をしないと絶対浮かばない疑問だが、それが問題意識を持つことや、新しい発想の原点になる。
組織が活性化し続けるのは実に困難なことだが、そのための仕組みづくりができている組織として宝塚歌劇団が挙げられる。
宝塚では、トップスターに上り詰めても、人気絶頂期に退団していく。構成メンバーは常に入れ替わり、新メンバーから次なるスター候補が生まれ、トップスターに育っていく。退団した元トップスターたちが、別の活躍の場を自ら見いだし、見事に花開かせている姿を目にすることも珍しくない。
企業の人事制度にもこの方式を応用できる。1つの部署に一定期間所属したら異動なり、卒業するなりして代わるという仕組みを導入してみる。そうすれば、社員は変化を当然のものとして受け入れ、常に緊張感と意欲を持って動くことになる。それが変化の激しい時代の「軌道修正型」経営戦略を成功させる有効な手立てとなる。私はこれを宝塚方式と名付けている。
自分の存在意義は自ら見つけよ
このように新陳代謝のよい人事制度が望まれる時代において、個人はどうあるべきか。
その答えは、「日頃から力を磨くこと」に尽きる。会社の肩書がなくても仕事ができるか自分に問いかけてほしい。そしてどこへいっても自分自身の実力を正当に客観的に評価してもらえるように、仕事の実績をつくっておくことが大切である。
ただし、いざ「おまえを切る」「おまえを外す」と言われたとしても、あまり深刻に考える必要はない。「今、この仕事に合うスキルを私は持っていなかった」というだけで、決して人格が否定されたわけではないのだから。そこに居続けても自分の能力では不十分、自分の能力は生かされないという事実を冷静に受け止め、「これをきっかけに新しいスキルを得よう」「次は自分が生かせるところで仕事をしよう」「これから、自分が経験していない未知の業務にチャレンジできる」と、ポジティブに動き出せばいい。
ただ、どんな職務が自分には向いていないかについては、ここでしっかり分析しておきたい。
石倉 洋子
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
いしくら・ようこ●上智大学外国語学部英語学科卒業。フリーの通訳等を経て1980年、バージニア大学大学院にてMBA取得。85年日本人女性として初めてハーバードビジネススクールの経営学博士号(DBA)取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、青山学院大学勤務を経て現職。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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