
既得権益を壊す「宝塚式」人事戦略
新しい技術がどんどん開発され、ビジネス環境もスピードを増して変化していく。
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 石倉洋子/大熊文子=構成
新しい技術がどんどん開発され、ビジネス環境もスピードを増して変化していく。そんな状況を味方につけ、新しい革新を起こせる企業とはどんな企業なのか。そして、変化に対応できる柔軟な組織をつくるために、人事制度はどうあるべきなのか。
走りながら考える「軌道修正型」経営へ
この10年間のビジネス環境の変化を振り返ってほしい。劇的な変化がもたらされているが、その最大の立役者はICT(情報通信技術)の発達であろう。10年前なら重大事件が起きても、その情報が伝わって各方面が対応に動き出すまで多少のタイムラグが生じたものだ。今は出来事の影響がすぐさま、世界を席捲してしまう。2月の上海株急落を発端とした世界的な株安などは、その最たる例だろう。 ICTの発達は、多くの業界において、戦略の立案の仕方をも大きく変えることになった。従来のように、市場データを分析しつつみんなで寄ってたかって検討を重ね、“正しい答え”をつくり上げ、社員一丸となって遂行していくという手法はもはや使えない。それどころか、計画段階で時間をかけて細部まで詰めてしまうのは弊害にさえなる。というのも、計画が完成するまでに時間がかかりすぎ、出来上がった時点では陳腐化してしまうからだ。さらに、一生懸命つくると、市場が思わぬ方向に変化し、現状に即していなくても「あんなに苦労した私たちの努力は何だったのだ」という心理が働いて、変更に踏み切れなくなる。今日の経営戦略とは、大まかな方針だけを決めて細部は走りながら状況に応じて考える「軌道修正型」であるべきだ。
技術がますます高度化し、複雑化かつ多様化している昨今、「正しい」「最善」の技術を求めることにも限界がある。たとえ、自社で苦労して育て上げた技術であっても、市場でイニシアチブがとれないことになったら即座に捨て去り、他社の技術に乗り換えないと後に大きな禍根を残すことになる。最大の顧客基盤を獲得し、デファクトスタンダードになった技術以外は市場から消え去ることが多いからだ。
こうした変化をとらえて、2001年に新CEOジェラルド・クライスターリー氏を迎えた電機・家電メーカーのフィリップスでは、「“技術”のフィリップスから脱皮して、“ブランド”のフィリップスへと生まれ変わる」という戦略を展開した。フィリップスは、「技術に長けた企業」という看板を掲げてしまうと技術に固執し世界的な流れを見誤ることを危惧してブランドを前面に出した、と思われる。
今日のように変化の激しい時代には、(1)変化に応じたダイナミックな目標設定、(2)それを推進するトップの強力なリーダーシップ、(3)目標を遂行するための人事面でのイノベーション、の3つが必要になる。
この場合のリーダーのあり方は、戦争を例に挙げるとわかりやすい。
戦いの最前線で指揮をとる士官は、使命を全うし、部下全員を無事に連れて帰りたいと考えている。しかし、それが叶わないときもある。そんなときは、目の前の部隊の損失よりも、戦略上与えられた絶対的使命を果たすために、意を決して部下に「死を覚悟してくれ」と言わざるをえない。
石倉 洋子
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
いしくら・ようこ●上智大学外国語学部英語学科卒業。フリーの通訳等を経て1980年、バージニア大学大学院にてMBA取得。85年日本人女性として初めてハーバードビジネススクールの経営学博士号(DBA)取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー、青山学院大学勤務を経て現職。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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