
大前研一|「史上最大の金融危機」これが世界を救う方法だ!
大前研一の日本のカラクリ
「アメリカ発金融危機」は全世界へと波及した。いま打つべき最善の手は何か。ずばり提言する。
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長 大前研一/小川 剛=構成 宇佐見利明=撮影 AP Images=写真
米国債の暴落は絶対に忌避せよ!
いまのところは「米国債は絶対に大丈夫」という暗黙の了解が成り立っている。だが、さらに米国債が乱発されるとなると、誰かが「大量に保有しているけど、これって大丈夫か?」と言い始め、3人ほどが「確かにそうだ」と言った瞬間に暴落が始まる。パラダイム転換というのは誰かがまともな疑問を発したときに起こるものなのだ。
アメリカ以外の国にとって一番恐ろしいのは米国債の暴落であり、ドルの暴落。流動性確保のために500兆円分も輪転機を回したら、米国債はすぐに暴落する。それは世界の金融システムの本当の終わりの始まりとなる。
では、どのようにして流動性を確保すればいいのか。アメリカ発の金融危機が世界に広がって、いまや世界中で危機が高まっているのだから、世界が一致団結して流動性を供給する体制(全世界では1000兆円くらいの見せ金が必要となる)を整えるべきというのが私の主張だ。
10月のG7(先進7カ国財務大臣・中央銀行総裁会議)では、公的資金による金融機関への資本注入など世界的な危機打開に向けた行動計画を策定した。しかし、まだまだ具体性に乏しく、各国が公的資本の投入を決めても株式市場の連鎖的な乱高下は続いている。金融当局が事態をまるで理解していない、ということをさらけ出したからだ。
皆がお金がないと思うからパニックになるのであって、十分にあると思わせることができればパニックにはならない。国ごとの個別対応ではなく、世界各国が資金を持ち寄って流動性を供給する国際的な機関を組織する。
たとえば、アメリカが200兆円、EUが200兆円、中東湾岸諸国も200兆円、中国150兆円、日本100兆円、ロシア50兆円、台湾50兆円、という具合に資金を提供し合えば、1000兆円規模の資金がプールできる。そこから酸欠状態に陥った世界の金融機関に酸素を吸入していくのだ。
拠出した資金はなくなるわけではない。危機を脱して不良債権を処理できれば、銀行は健全な体に戻って利益を出せるようになる。そのときに吸入分に利息を付けて戻させればいい。実際にスウェーデンでも日本の金融危機でも投入された公的資金は、ほとんどが返還されている。
また国際機関を組織する際、そもそもの原因を生み出したアメリカが陣頭に立つ責にある。世界各国にこう言って謝り、資金協力を請う。たとえば中国には「いままで人権、人権とうるさく言って申し訳ない」と頭を下げ、「テロ支援国家と見間違えて申し訳なかった」と湾岸諸国に謝罪する。ロシアにもグルジア戦争を仕掛けたことを謝る。
要するに、いままでの力の外交に終止符を打つ「儀式」が必要なのだ。この流動性供給機構のトップには、ラリー・サマーズ教授やスウェーデン方式を編み出したイギリスのアラン・モーガン氏などをもってくるといいだろう。
そしてもう1つ、今後の世界の金融システムを守るために、国際的な金融監視団をつくることも検討すべきだ。
アメリカは金融監視団の査察を受け入れて、監視団が認証した金融商品しか輸出できないようにする。サブプライムを含んだCDO(債務担保証券)のような劣悪な金融商品の輸出はやめさせる。公社から民営化されて単なる私企業にすぎないファニーメイやフレディマックの債券を、いかにも政府保証付きの準米国債のごとく「ミートホープ状態」にしたり、産地偽装して世界に売るのもやめさせる。
また、混乱に乗じて為替市場で狼藉の限りを尽くしているヘッジファンドなどの規制も、彼らに無節操に貸し出す銀行への制裁も併せて強化すべきだ。弱り切った中央銀行や不慣れなヨーロッパ中央銀行(ECB)は、高い倍率で空売りを仕掛けてくるヘッジファンドに対抗できない。このままいけば市場だけでなく、産業そのものが破壊される。
今回の金融危機は100年に1度の大きなものだと言われている。しかし、私に言わせれば、歴史から学んでいない当局、政治家たち、学者、アナリストなどが考えもなく対処し始めたために被害が広がったにすぎない。
日本も「金融危機先進国」として過去15年間の十分な分析と総括、そして反省があれば、世界に大きな貢献をすることができたハズである。少なくともG7で資本注入を(まだ第1フェーズの体制ができていない)アメリカに建議するような愚は犯さないはずである。
大前 研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾
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