
築山節・池谷裕二―眠った力が目覚める7の習慣【2】
最新脳医学:人気の医師&科学者が「差がつく」秘訣を指南
脳の専門家2人に、「やる気を高める」「閃きを生む」「記憶力を高める」「持続力を高める」処方箋を聞く。(全2回)
村上 敬=構成 相澤 正=撮影
差がつく習慣【6】記憶力が落ちたと感じるときは
●築山先生からのアドバイス
メールで何度もやりとりしている間柄なのに、いざ会って話そうとすると、相手の名前が思い出せない。こんな失敗を何度か経験して、「最近どうも物忘れが激しくなった」と嘆いている人は多いかもしれません。しかし、物忘れがひどくなったと決めつけるのは早計。実際は思い出す以前に、最初から記憶していないだけの場合が多いのです。
情報は、出力することを前提にして入力しないと使える記憶になりません。例えば漠然と街を歩いたあとで「何を見かけたか」と質問されても、簡単に思い出せないものです。しかし、同じ風景を見ていても、あらかじめ質問されることがわかっていれば、意識して情報を入力するため記憶に残りやすくなる。
これは人の名前や会議の内容も同じ。文字を目で追ったり話を聞いたりするだけでは記憶に残りにくく、書いたり話したりという出力を意識してようやく使える記憶になります。メールで何度も読んでいるはずの名前が思い出せないのも、そもそも口に出して発音していないからなのです。
記憶力を高めるには、出力の機会をなるべく多くつくることが大切です。ただ、実はそれ以前の問題も大きい。現代人は、発話する能力自体が衰えています。かつて発話の能力を維持するために必要な発話量について研究したことがあるのですが、その境界線は1日約1000語(約1000秒)でした。しかし、少ない人は1日数百語程度。これでは発話の能力そのものが低下して、出力の機会があってもうまく話せないはずです。
そこでおすすめしているのが新聞コラムの音読です。例えば「天声人語」は600字強。これを音読すれば、普段数百語しか話さない人も、発話能力をキープするのに最低限の発話量は確保できます。コラムを読めば話のネタが増えるので、より積極的に会話の機会もつくれ、二重の意味で効果的です。
このようにして出力の機会を増やしていけば、情報を入力するときにも「あの場面で話そう」という意識ができ、それが記憶の強化にもつながります。
●池谷先生からのアドバイス
物覚えが悪くなったことを、脳の衰えのせいにするのは間違いです。年齢とともに新しいことを記憶しづらくなっているのは、たんに年相応な記憶のやり方をしていないことが原因でしょう。
これを理解するには記憶の構造を知る必要があります。記憶には経験記憶(自分の過去の経験に絡んだ記憶)、知識記憶(知識や情報などの記憶)と先ほども触れた方法記憶(自転車の乗り方など無意識で覚えた記憶)の3つの種類があります。
これらの記憶には上下関係があり、ピラミッド構造になっています。ピラミッドの下の階層ほど原始的で、上の階層へ行くほど高度な記憶です。これは人間の成長のプロセスにも当てはまり、最初に方法記憶、次に知識記憶、さらに経験記憶の順に発達します。
記憶力が弱くなったという人は、おそらくこの発達プロセスを無視しているのではないでしょうか。中学生ぐらいまでは知識記憶が優勢で、丸暗記をしてもどんどん頭に入ります。しかし、それ以上の年齢になると経験記憶が上回り、丸暗記が難しくなります。にもかかわらず若いころと同じ記憶のやり方をしているから、新しいことが覚えられないのです。
大人に適しているのは、自分の体験を情報と関連づけて覚える経験記憶です。もっとも簡単なのは、人に話すことでしょう。単独では覚えにくい知識も、「あのときあの人にこう説明した」という経験と結びつければ、比較的容易に覚えられると思います。
これを間接的に裏付ける興味深い実験もあります。米パデュー大学のカーピック博士は、ワシントン大学の学生を4つのグループに分け、40のスワヒリ語を記憶してもらう実験を行いました。1番目のグループはテストして、間違えたらリストを見せ、全部を再テストします。2番目は間違えた単語だけ見せ、全部を再テスト。3番目は間違えたらリストを見せ、間違えた単語だけ再テスト。最後は間違えた単語だけ見せ、間違えた単語だけ再テストします(少々ややこしいので図を参考にしてください)。
全問正解するまでその日のうちに何度も再テストをしたところ、覚えるまでのテスト回数には差がありませんでした。ところが1週間後に再テストをすると、グループ間で大きな差が出ました。3、4番目のグループより、1、2番目のグループの点数が3倍ほど高いという結果が出たのです。得点の高いグループに共通するのは、再テストで毎回全問を解いたかどうか。つまり入力の仕方は関係なく、出力する機会が多いほうが記憶は定着すると考えられます。
人に話すという行為は、まさに出力そのものです。覚えたい知識があれば、資料を何度も読み返すより、それを職場で話してみるとよいでしょう。そのほうがずっと記憶として定着します。
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