
“ヒラリー国務長官”がオバマ政権のアキレス腱?
堀田佳男の「2008アメリカ大統領選ウォッチ」 第11回
「オバマ次期大統領はグッドリスナー」……ワシントンの政界に通じる旧友と電話で話をしていると、思わぬことを口にした。
文=堀田佳男
ペンタゴンとの力関係、ヒラリーの経験不足が不安材料
ただオバマ氏が直面する難題は金融危機だけではなく、国防・外交分野でも課題が山積している。それに対処するため、国防長官は当面の間、現職ボブ・ゲーツ氏を留任させる。ゲーツ長官はネオコンではないが、ブッシュ大統領によって任命された共和党の人間である。イラクからの米軍の撤退問題では明らかにオバマ氏と考え方が違う。
オバマ氏は大統領選の期間中、「2010年夏までにイラクから米軍を完全撤退させる」と繰り返し述べてきたが、ゲーツ長官は撤退期限の設定には反対している。アフガニスタンに増派する考え方には共通項があるが、撤退問題ではオバマ氏が妥協せざるを得なくなる公算が強い。
では何故オバマ氏はイラクからの撤退を公言しておきながら、それに反対する国防長官を敢えて続投させたのか。そこに今の民主党の弱点が垣間見える。
ゲーツ長官を短期的にでも留任させることで、共和党との超党派的な動きに出たとも受け取れるが、実はペンタゴンという世界最大の国防組織をリードしていく最適任者が今の民主党内には見当たらないということなのではないか。イラク戦争へ強い反対の意思表示をしてきたオバマ陣営には、ペンタゴンの制服組との対立が際立つ人材が多いということである。
また、ヒラリー氏の国務長官起用もオバマ政権にとっては問題がある。というのも、ワシントンから漏れ伝わってくる情報では、ヒラリー氏はすでに、次期アメリカ外交を「ヒラリー流」に染める動きに出ているという。
まず国務省の高官を息のかかったスタッフで固め、オバマ氏と外交問題について討議する時はホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)の補佐官を通さず、直接オバマ氏と会話をする特権を得ようとしているらしい。
さらにヒラリー氏は、すでにホワイトハウスの外交問題担当補佐官に内定しているグレッグ・クレイグ氏と仲たがいしており、オバマ政権内は一枚岩といえるほど楽観的な空気に包まれてはいない。
クレイグ氏はヒラリー氏とエール大学ロースクールの同窓で、オルブライト国務長官の相談役などを務めた外交通である。クリントン政権時代は夫妻を下支えしたが、今年の大統領選挙ではオバマ氏に肩入れし、裏切った形となった。
そればかりか、「ヒラリー氏はこれまで外交問題を実際に処理した経験がないばかりか、外国政府と重要な交渉をした経験もない。国際問題が生じた時に重要な政治判断を下したこともない」とこきおろしさえした。確かにヒラリー氏は閣僚の中では世界で最も顔が売れているが、外交の実務経験はほとんどない。
けれども、いつの時代でも完璧な閣僚を揃えることはほとんど不可能といっていい。政権内の人間関係に軋みがあるのも常である。そんな中、オバマ氏の学習能力の高さには定評があるし、考え方も実に柔軟だ。
あとは周囲のアドバイザーから多くの意見を聴き、国内外情勢を冷静に判断し、最良の政治決断を下すことを期待したい。なにしろ「グッドリスナー」なのだから。
堀田 佳男
1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学 大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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