職場の人間関係学
2008年 12月 1日

なぜ成果主義は「歪んだ派閥」を生むのか

産業医の立場から男性社会の闇に切り込み、新しい評価の仕組みを提案する。

なぜ男性が「自決型死亡」に走るのか、そのヒントとなるのが、うつ病の表現形態の男女差である。

うつ病を発症すると本来、気分が落ち込んだり、何もかもが悲しくなったり、興味や喜びの感情を喪失して無気力になったり、意欲が低下する。女性はこの感情をストレートに外に出せる例が多い。

しかし、男性はこれを「女々しいもの」として抑圧し、気分の落ち込みに罪悪感や自責の念を抱く。そればかりか、仕事がうまくいかなかった理由についても「力不足による業務上の失敗」として己の非と捉える傾向が強い。うまく回っているときは“頼もしい”といわれる男性気質も、いったん闇の世界へと足を踏み入れてしまうと、人生の幕を引く力と化してしまう。

自殺未遂者は、報告されている数の10倍以上はいるといわれる。

これは成果主義の導入による競争の激化と切っても切り離せない問題である。「部署全体で力を合わせて、成果を出したい」という気持ちよりも「部署内で自分以外、皆が総崩れすれば1人勝ちだ」という考えが蔓延すると、職場は「自決型死亡」の温床になる。

社内の雰囲気が険悪化し、イジメ、孤立無援状態の放置、見て見ぬふりという声は、賃金連動型の成果主義を導入した組織体から頻繁に聞こえてくるが、「自決型死亡」はこうした行為のすぐ隣に潜んでいる。

たとえば、指導を求めてきた部下に対して、「私自身もこれまで1人で学んできたんだから、あなたも私を頼らず自分で学ばなければいけない。『教えろ』と言われても、あなたのほうが、よほど詳しいでしょ」と言い放った上司がいたらしい。「デキる」「近い将来抜かれる」と感じさせる優秀な若手には、厳しい言葉が投げかけられる。これなどは所謂パワハラで、成果主義に名を借りたイジメである。

一方、「この仕事は、私が20年来担当しているんだから、私に任せてくれればいい」と言い切る過剰なまでの「自己完結型」には、成果主義の導入で「仕事を渡すと、自分の存在価値がなくなる」という恐怖がすり込まれてしまったようだ。このタイプはもともと周囲に耳を貸さない性格なので孤立しやすいが、仕事に関係する情報も人脈もますます開示しなくなり、以前にも増して仕事を囲い込んでしまう。抱え込んだ結果、業務の停滞を生むとともに、周囲の者が仕事を学ぶチャンスを奪うという大きな弊害をもたらしてしまっている。

「やりすぎて疲れたら、休む」。これは生きていくうえでの理(ことわり)だ。仕事も同じで、「自決型死亡」阻止の対応策も、まずは精神科の治療を受けてしっかり休養をとること。そこまでできないのなら、仕事を大幅に減らすことだ。スタッフの判断能力が低下し、仕事の効率が著しく低減していることは、仕事の監督者たる上司が気付いてやらねばいけない。

しかしその上司の口から、「休んで体調を整えろ」という言葉が出ないことがある。自分が仕事を与えており、代わって仕事をする人がいない以上は納期の遅れなどのリスクを背負う覚悟が必要になるが、保身からついその言葉をのみ込んでしまうらしい。

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プロフィール

荒井 千暁

日清紡統括産業医

あらい・ちあき●1955年、静岡県生まれ。東京大学大学院修了。医学博士。著書に『こんな上司が部下を追いつめる』『職場はなぜ壊れるのか』など。

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