職場の人間関係学
2008年 12月 1日

なぜ成果主義は「歪んだ派閥」を生むのか

産業医の立場から男性社会の闇に切り込み、新しい評価の仕組みを提案する。

成果主義時代の新たな派閥形成メカニズム

単純な成果主義は、社員のモチベーションを低下させる。成果主義の原点は、全員を同じスタートラインに立たせて必達目標(コミットメント)を強いるシステムなので、社員の“やらされ感”を強めている。目標設定は上司の一方的な意向や、根拠なき憶測で決まるものも現実的にはある。目標管理に楽しむ要素があれば精神的な余裕も生まれるが、その要素はさほど見当たらない。成果主義は本来のやる気を削ぎ、ある意味仕事が辛くなるのは当然だと思わせるシステムになってしまっている。

そうした成果主義がもたらした荒波を「自分だけはなんとかしてかいくぐりたい」という思いから新たな動きが見られる。それが新タイプの派閥の発生だ。この派閥は従来からある、経営のイニシアティブ獲得をねらった、社長派vs専務派といった形とは全く異なり、成果主義でプラスの査定を入手するためのものだ。

現状のままでプラス評価を手に入れるためには、個人で手堅くクリアできる目標を掲げるか、評価される力を外部から見つけてくることに尽きる。

競争が激化するなかでは、上司から高い目標が求められるため、目標を甘めに設定することは難しい。「定年近くまでは働いていたい」と思うなら、自分以外の力を頼みに、自己防衛のために生き残りをかけ派閥に所属するしかない。派閥にくみすることで、ある種の保証を得るのだ。これは、「イジメられたくない」「信頼はおけないが、生き残るためには強そうな奴の子分になる」といった子ども社会のイジメ防衛策と似ている。派閥に属して危機を乗り切ることは、人間の本能なのかもしれない。

新タイプの派閥について具体的に説明しよう。たとえば、革新的な業務ではないものの、それなりの成果が出る仕事をしているAチームと、巨大プロジェクトではあるが、簡単には成果が出ない業務に従事するBチームがあるとする。Aチームの仲間になったほうがここ3~5年の生活は、安定する。そこでAチームに所属することにする。

成果主義下のチームはとてもリベラルなため、自らの目的を果たしたなら、Cチームに移り、その後はDチームに移ることも可能だ。リベラルというと聞こえはいいが、これは単に人が渡り鳥化しているだけのこと。このチームが、危うい派閥を生み出している。新タイプの派閥は、チームから派生した一時的な集まりであって、仕事に対する目的意識や結束力を欠いていることが多いためだ。

このような話を聞くたびに、成果主義とは言いながら「なんだかんだ言って大きなビジョンを掲げても、ポシャッてしまえば終わりだ」という刹那的な考えが組織にはびこり、目先の評価だけで社員が行動しているように思う。危うくもろい派閥が生じては消えるという、渡り鳥ばかりが繁殖するような企業体に5年後、10年後はおそらくない。

さて、「自決型死亡」者数の動向については、今後もしばらくは増加が続くものと思われる。管理職の若年化によって、「自決型死亡」も連動して若年化する可能性をはらんでいるためだ。

30代の多くは、「これだけ働いても、10年後の自分の姿が全く見えてこない」と大いに揺れている。今の20代後半の管理職登用が始まり、腹が決まってくる34~39歳までは、このまま不安な気持ちを引きずっていきそうだ。30代の「自決型死亡」が今後数年は減らないと思われる理由は、そこにある。

この状況をただぼんやりと見ているわけにはいかない。「成果主義自身の〔成果〕を厳しく見極め、評価制度を検証する時期にきている」と訴える立場を私はとる。

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プロフィール

荒井 千暁

日清紡統括産業医

あらい・ちあき●1955年、静岡県生まれ。東京大学大学院修了。医学博士。著書に『こんな上司が部下を追いつめる』『職場はなぜ壊れるのか』など。

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