
「日本画」はポップである
《J》Japanese pop:ビジネスマンのための「現代アートABC」【第11回】
「ジャパニーズ・ポップカルチャー」が人気を集めているなかで、「日本画」の系譜を紐解く作品も注目されています。
山口裕美=文
一方、天明屋尚とはある意味対照的な、ポップでマンガの影響を強く受けたアーティストとして中村ケンゴがいます。彼の作品は、マンガの吹き出しをそのまま文様のように使って、古今東西の名画にしています。吹き出しには何も言葉がなく、あたかもたくさんの会話があったとしても中身がからっぽだと言わんばかりです。あるいは古今東西の名画の前で交わされた空虚な会話の痕跡でしょうか。色づかいもカラフルで、作品が描かれたTシャツは、若い人々にとても人気があります。その中村ケンゴの作品は、和紙に岩絵の具で描かれています。つまり、技法的には「日本画」ということになります。
題材が日本画風の天明屋尚は日本画技法=日本画ではなく、テーマがポップでも岩絵の具によって描く中村ケンゴは日本画技法=日本画、ということです。どちらも現代アート的にはとても興味深い作品であり、クオリティーは非常に高い。それでもそうしたカテゴリー分けにこだわって、区分を強いるのは伝統やしきたりを重んじる日本のアート界だけではないかと思います。今や技法も表現方法も多様化しています。その多様性を許すことにこそ、未来があるのです。
またもう1つ大事な問題が、グローバル化の問題です。例えば、世界という舞台で作品を発表していく時に、日本的な文化やバックグラウンドを消して「世界水準(ワールドスタンダード)」で活躍することがグローバル化なのか、あるいはまったく逆で、日本独特の個性を押し出していくことで作品の独自性を強調することがグローバル化なのか、ということです。これは長年アーティストを悩ませてきた問いです。おそらく、企業が製品を開発する時にも同じようなジレンマがあるかもしれません。
2006年、そういったことを考えるのに面白い展覧会が東京都現代美術館と横浜美術館で開催されました。東京都現代美術館では「NO BORDER/日本画から日本画へ」というタイトルで篠塚聖哉、天明屋尚、長沢明、町田久美、松井冬子、三瀬夏之介、吉田有紀が参加しました。一方、横浜美術館では「日本×画展/しょく発する6人」というタイトルで、しりあがり寿、小瀬村真美、中上清、中村ケンゴ、藤井雷、松井冬子が参加しました。どちらの展覧会でも、今までのカテゴリー分けでは「日本画」とは呼ばれなかった作品を日本画として紹介しました。「日本画」の概念がかなり拡張し始めていることを提示した良い展覧会だったと思います。
これから日本画を描くのは日本人とは限りません。また今の「日本画」アーティスト以上にポップな表現も登場するかもしれません。私には、日本から「日本画」として現代アートを発信してゆくことにも可能性を感じています。伝統と最新のテクノロジーをミックスさせていけば、強力なコンテンツになると思っています。
山口 裕美
Yumi Yamaguchi●アートプロデューサー&アートジャーナリスト。アーティストをもっとも近くから応援するその活動から「現代アートのチアリーダー」の異名を持つ。ウェブサイト、トウキョウトラッシュを主宰。アート系NPO法人芸術振興市民の会(CLA)理事。エレクトロニックアートの祭典「eAT金沢99」の総合プロデューサー、2004年ARS ELECTRONICA ネットビジョン審査員。著書に「TOKYO TRASH web the book」(美術出版社)、「現代アート入門の入門」(光文社新書)、「COOL JAPAN-疾走する日本現代アート」(BNN新社)、「芸術のグランドデザイン」(弘文堂)、「Warriors of Art」(講談社インターナショナル)、最新刊「The Power of Japanese Contemporary Art」(アスキー)がある。
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