
なぜ、「おたま」の穴の数は47個なのか:吉野家式会計学(2)
バイト出身社長、安部修仁に聞く【商品回転率】
人時客数を高めることができる道具とは……その象徴が、吉野家の“お玉”である。
ノンフィクション・ライター 山田清機=文 鷹野 晃=撮影 ライヴ・アート=図版作成
生産性を測るための指標として、吉野家には「人時客数」という独特の指標がある。人時客数は、1時間当たりにひとりの店員(キャスト)が何人の客を捌いたかを見る指標だ。
飲食店は回転率を重視する。特に、客単価が低いファストフード店の場合、回転率を上げることが至上命題となる。注文を受けてからサーブするまでの時間を短縮することで、回転率は上昇する。
しかし、アイドルタイム短縮のために店員を増やせば人件費がかさむし、店員を増やしてもスキルが低ければアイドルタイムの短縮はできない。つまり、あくまでもひとりの店員が単位時間当たりに捌ける客数を増やすことが重要。人時客数には、こうした含意がある。
さらに、人時客数アップのためには、厨房で使う道具も大切だ。人時客数を高めることができる道具とは……その象徴が、吉野家の“お玉”である。
吉野家のお玉の穴の数は47個。穴の直径は企業秘密とのことだが、穴の数も直径も全店舗共通だ。安部社長は言う。
「一発で盛りつけたとき、たれの量がご飯に対して最適なバランスになるように、穴の数と直径を決めてあるんです」
つまり、このお玉を使わなければ、たれとご飯のバランスが崩れて、「つゆだく」や「つゆ抜き」になってしまうわけだ。しかし、効率ということを考えた場合、むしろ重要なのは「1発で盛りつけたとき」という安部社長の言葉だろう。裏返して言えば、このお玉、2発や3発での盛りつけを許してくれないのだ。
つまり、このお玉の機能は、たれの量を最適化するだけではない。これを使う以上、一定動作で盛りつけをせざるをえないのだ。穿った見方をすれば、お玉の形状に、店員の動作を規定する力がある。
しかも、この動作が守られているかどうかは、数字によって把握されている。
「たれ、肉、米の使用量のバランスを見るため、たれ比、米比といったデータをデイリーで取っています。規定のバランスより上でも下でもエラーが出る。エラーが出たら、スーパーバイザーやエリアマネージャーが店長を指導します」
つまり、基本動作を破るとたれの使用量が不適切になり、即、指導が入る。こうしたシステムの存在によって、店員の動作もアイドルタイムも一定に保たれ、高い回転率が維持されているのだ。
さて、前述したスペース・プロジェクトで安部社長は、当時11人/人・時だった人時客数を一挙に14人に引き上げて客数の増加に対応できる体制をつくり上げているが、実は、こうした高回転率のDNAは、吉野家発祥の地である築地店で、はるか昔に産声を上げている。
65年、席数わずか15の築地店は、年商1億円という驚異的な数字を叩き出している。1日の来客数1000人。営業時間は朝5時から昼1時までの8時間だから、回転率を計算してみると、なんと1日66.6回転である。ファミレスの回転率が通常5回転にも満たないことを考えると、この数字の異様さが際立つ。
【吉野家 DATA FILE(2)】
驚異の1日66.6回転――ファミレスの10倍超
第1号店である築地店は、築地市場の中という場所柄、忙しいお客さんが多い。お客さんの顔と注文内容を覚えておくという「記憶オペレーション」が行われていた。新人時代、安部社長も1000人の「マイオーダー」を覚えていたという。
山田 清機
ノンフィクションライター
やまだ・せいき●1963年、富山県生まれ。87年早稲田大学政治経済学部卒。大手鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。主な著書として『青春支援企業』『卵でピカソを買った男』。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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