実践ビジネススクール
2008年 12月 16日

大前研一の日本人論―活路を開いた男たちの志、気概に学ぶ

特別寄稿:松下幸之助、本田宗一郎、川上源一、盛田昭夫……熱き思いと野心が日本を変えた

かつて日本には、熱き「志」と「気概」を胸に秘め、敢然と国外へ飛び出し、世界的な大企業に成長させた優れた経営者たちがいた。

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なぜ今の経営者は志も気概も弱くなったのか

語学力や実務的なスキルの面では、今の経営者のほうが上かもしれない。しかし戦後第一世代が持っていたような世界を相手にする気概、心通じるまで徹底的に話し合うような意志や意欲に関しては、決定的に劣っているように思える。

中国進出などグローバル化を推し進める企業はある。だが、それは少子高齢化で国内マーケットが頭打ちだとか、人材がいないとか、円高で労働コストが上がったという理由で活路を求めたからで、「そこに顧客がいるから」「世界がわが市場」という強い思いで出ていくわけではない。

松下幸之助さんの義弟である井植歳男さんが創業した三洋電機は、早くから世界志向が強かった。「国内では兄貴にかなわないだろうから、俺は3つの海(スリー・オーシャン)を股にかけて勝負する」ということで「三洋」と名付けたぐらいだ。パナソニックによる買収話を墓の下の井植さんはどんな気持ちで聞いたのだろうか。

顧客に、地域に、世界に受け入れられるグローバル化のプロセスというのは、構築するのに少なくとも20年はかかる。今どき、それだけのビジョンと気概、そして根気を持って事業に当たっている経営者はどこを探しても見つからない。戦後第一世代と今のジェネレーションでは人種がまったく違うようにすら見える。

では、どこで違ってきたのか。偏差値教育が導入されて以降だと私は考えている。偏差値の最大の問題点は、それがあたかも人間の能力や価値を規定しているかのような錯覚を与えることだ。自分はこんなレベル、こんな分際だからと思い込み、分相応な道を歩もうとする。

私のような偏差値以前の世代には「自分の限界はここまで」という発想がない。偏差値のようなもので自分の人生にタガをはめられるのは御免だし、やりたいと思うことがあれば努力を惜しまない。

創業間もないホンダに入社して本田宗一郎さんや藤沢武夫さんの薫陶を受け、副社長を務めた西田通弘さんによれば、ホンダがまだ自動車部品の下請けをしていた頃から宗一郎さんは毎朝20数人の従業員を集め、背が低いためミカン箱の上に乗って「世界のホンダになる」と叫び続けていたという。宗一郎さんは高校時代に放校されて高校は名誉卒業だ。

ヤマハの川上源一さんのピアノ研究における科学的な分析力も、高商卒とは思えない、いや学者顔負けの凄さだ。彼は世界中から木を集め、何日干して乾燥させればどういう音がするのか、実に16万通りの実験をした。本場アメリカやドイツでもやっていない木材やピアノ線の研究を繰り返し、ついに世界一のピアノ会社をつくり上げたのだ。弱小資本の日本の楽器メーカーが西洋の伝統楽器であるピアノで世界一になるのだから、今では信じられないような夢物語だ。

途中、世界のピアノ御三家の一つ、スタインウェイ社がかなりの安値で売りにきたことがあるが、「この会社に追いつき追い越すことを目的にしてきたから」と買収しなかった。口癖は「音楽は世界の共通語」。その普遍的な価値観は世界中で受け入れられたし、感動を与えてきた。経営の上手下手はともかくとして、川上源一さんは音楽普及という面において本当に気概溢れる企業家だった。

日本を偉大なる加工貿易立国へ、世界第2位の経済大国へと押し上げてきたものとは、そのような限界のない夢であり、無限の可能性だったように思える。

しかし偏差値という文部科学省の鋳型にはめ込まれてしまうと、身の丈に合った夢しか見られなくなり、手の届く可能性にしかチャレンジしなくなってしまう。そこに少年ジャンプ的な「友情・努力・勝利」というキーワードが重なると、お手軽な成功と極私的な幸せで充足する予定調和の世界観が出来上がる。

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プロフィール

大前 研一

ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長

1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾

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