
故郷の友人を信じ、起業に夢を託した50代経営者が家を失った理由とは
ルポ!「人生の選択」笑うアリvs泣くキリギリス【元社長は流浪の「ネットカフェ難民」】
若い頃は生活も安定、結婚して子どもにも恵まれ幸せな人生から一転、利用され借金を背負わされることになってしまった。
文=桐山秀樹 撮影=内山英明
しかし、そこで救いの手を差し伸べてくれたのが東京の古い友人だった。「戻ってこいよ」という一言で、山本さんは着の身着のまま東京行きの夜行バスに乗る。友人の家に身を寄せ、彼が経営する飲食店で働くことになった。
「あの一言がなければ自分は刑務所行きだったでしょう。本当に感謝しています」と山本さんは当時の心境を語る。
しかし、その友人も1年後に急死。再び家と仕事を失った山本さんは、数カ月の路上生活を経て、今の職にありつくことができた。毎日働く場所があり、何とか食べていけるだけでもまだましだと言う。
「あと3年ほど働いて危険が薄れ、借金返済のめどがついたらアパートに住みたい。子どもたちにも逢えたら」と山本さんは、わずかな希望を覗かせる。
全国のネットカフェには今、山本さんのような家なき人々が寝泊まりし、「ネットカフェ難民」となっている。厚生労働省が行った調査によると20代についで多いのが50代だ。
「いわゆるワーキングプアの人々が、近年の構造改革の中で突然職を失うなどした場合、立ち直れずに難民化するケースが多いんです。実際、ナイトパックの料金が1500円程度というネットカフェに寝泊まりできる人は、不定労働者の中でも比較的収入がある人。けれど、敷金、礼金に充てる貯金がないからアパートに入れないんです」
と、家なき人々の自立支援NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の湯浅誠事務局長は語る。やはり低学歴で派遣等の職種で働いていた人が大多数。人脈も知識も乏しく、わずかな不安定要因ですぐ孤立してしまう。「もやい」では、彼らを再起させるため、アパート入居の連帯保証人を提供し、入居後も共通の課題を抱える当事者同士が交流する場をつくっている。
しかし、前出の山本さんのケースは、こういった人々とは一線を画する。実際、一定以上の能力も情熱もあって起業を目指し、「自分がこんな目にあうとは夢にも思わなかった」という山本さんのような人が、なぜこうした状況に陥ってしまったのだろう。ひとつには、ビジネスを取り巻く「人間関係」の変化がある。互いに助け合うことが美徳とされた日本社会にも、競争社会、格差社会へ移行する中で、他人に迷惑をかけてでも自分だけは生き残る、あるいは他にも先んじて優位を保ちたいという人、そして企業が増えた。
そんな中で、低学歴で仕事の専門性や人脈の乏しい人々だけではなく、山本さんのように、狭い専門分野で懸命にやれば安定した将来が続くと信じた人々も同じく搾取される。特に公共事業の激減した地方の主要都市では、その傾向が著しい。地方で真面目に働いて豊かに暮らすという夢は、今やそう簡単に実現しなくなってきているようだ。「本当に手がけていた仕事が大好きだった」と語る山本さん。しかし、彼は、そんな悪夢にはまってしまった。
だが一方で、ネット上では救いの手も差し伸べられている。新たな「人と人とのつながり」を得て、悩みを打ち明け、新たな「自分再生」の道を絶えず模索することも可能だ。まずは、それを考える自分自身の「家」を取り戻すことが始まりだろうか。
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