
増殖する拝金人間、きしむ職場関係
心理学者デシによると、成果に応じて金銭的報酬が与えられると、その人の仕事に対する興味が低下するという。
文=松井賚夫 立教大学名誉教授 図版作成=ライヴ・アート
1990年代の長い不況期に、多くの企業は従来の年功人事制度をサッさと捨て、競って成果主義人事制度を採り入れた。ここでいう成果主義人事制度とは、
(1)上司と部下が相談のうえで、半年ないし1年ごとに目標を決め、その達成度によって部下の給与、賞与、昇格などの重要な人事処遇を決める
(2)目標が達成できた者と達成できなかった者の間に、処遇上のはっきりした差をつける(場合によっては後者は人件費の安い派遣、契約社員などに置き換える)、というものである。
上述のように、あらかじめ目標を立て、達成した者には分配を増やし、失敗した者には分配を減らす成果主義人事制度は、大義名分にかなっており、また、失敗者の分配を減らし、さらにはパート、派遣、契約社員に置き換えるなどして人件費の大幅な節約にも役立った。だが、経営者たちは、予想もしなかったいくつかの重いツケを払うことになった。
成果主義人事制度の第1のツケは、従業員が、つまらない目標や、やさしい目標ばかりを設定し、高い目標にチャレンジしなくなったことである。年功人事制度でも目標は管理の有力な道具であった。だが、それは達成度に対応して報酬が支払われるというものではなかったから、目標は従業員にとっては、チャレンジであり、意欲的な従業員は自ら高い目標を設定し、それに挑戦した。つまり年功人事制度下では、目標は内発的動機の喚起要因であった(図表1のCグループ参照)。
ところが、成果主義人事制度では、目標を達成するかどうかで、処遇上で大差がつくから、目標達成は従業員にとってはよい処遇をうけるための手段となり、目標は外発的動機の喚起要因になった(図表1のBグループ参照)。目標が達成できたかどうかで、処遇が大きく変わるのであれば、失敗しないように、はじめからやさしい目標にしておこうとするのは当然である。
松井 賚夫
立教大学・駿河台大学名誉教授
まつい・たまお●東京大学文学部卒。人事院勤務後、明治、立教、駿河台大学で産業心理学を講ずる。リーダーシップ、モチベーション、女性のキャリア発達について多くの研究を内外の学術雑誌に発表。著書『リーダーシップ』『モチベーション』。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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