職場の人間関係学
2009年 1月 26日

増殖する拝金人間、きしむ職場関係

心理学者デシによると、成果に応じて金銭的報酬が与えられると、その人の仕事に対する興味が低下するという。

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「オープン、率直、誠実、公正」な上司が最も信頼される

成果主義人事制度の第2のツケは、従業員が自分の目標達成以外のことをしなくなったことである。この制度を導入した多くの企業が、従業員が「後輩や新人を指導育成したり」「仲間と話し合ったり」「お互いに協力し合ったり」などの、生産支援的行動をしなくなったことを訴えている。心理学者オーガン(Organ, D.W.)は、これらの支援的行動を「組織内市民行動」(organizational citizenship behavior)と呼び、 組織が円滑に運営されるためには、必要不可欠なものとしている(注4)。

支援的行動は、金銭的な報酬を伴わず、また、しなかったからといって処罰されることもないのが普通である。つまりそれらは、金銭的報酬、罰など、外発的動機によってではなく、「後輩を指導するのは自分の当然の責任」など、内発的動機によって行われるものである。したがって、成果主義人事制度によって、内発的動機によって行動する習慣が損なわれた従業員に支援的行動がみられなくなるのは当然である。

心理学者ルパイン(LePine, J.A.)らの調査によれば、支援的行動をよく行う従業員は、職務満足感、組織へのコミットメント、会社による公正な扱いに対する満足感、リーダーに支持されている満足感が高い人たちであった(注5)。従業員のこれらの特徴は、会社や上司に対する信頼感があってはじめて生まれるものである。

このことは、支援的行動を回復するには、“職場における人間関係管理”の一層の充実をはかり、上司と部下間の強い信頼関係を築くことの必要性を示唆している。最近における内外のリーダーシップ研究でも「部下の信頼感を高める上司の行動」が研究の焦点の一つになっている(注6)。また、私たちが最近行った調査でも、「上司と部下の信頼関係」こそが、部下の支援的行動のカギであることを強く示唆するデータが得られた。すなわち、部下からの信頼が厚い上司とは「オープン、率直」かつ「誠実、公正」で「いざというときには部下の力になってくれる」上司であったが、こうした上司の部下ほど、支援的行動への意欲も強いことがわかった(注7)。

だが、成果主義人事制度のもっとも深刻なツケは、ある人事担当者がいみじくも指摘した問題、すなわち、多数の成果主義“負け組”の、救いようのないモチベーションの落ち込みと、パート、派遣、契約労働など、不安定な雇用がもたらす労働の質の劣化であろう。

かつてエズラ・ボーゲルによってジャパン・アズ・ナンバーワンと讃えられた日本は、従業員の高レベルの組織内市民行動と、長年にわたって蓄積・温存された良質な労働によって支えられていた。だが、こんにち、3人に1人、とくに若年者の半数近くが不安定な非正規雇用であることによる労働の質の劣化は、労働人口の減少、老齢化とあいまって、将来のわが国産業の大きな不安要因であろう。非正規雇用の正規化など、企業も国もその対策を急ぐことが望まれる。

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プロフィール

松井 賚夫

立教大学・駿河台大学名誉教授

まつい・たまお●東京大学文学部卒。人事院勤務後、明治、立教、駿河台大学で産業心理学を講ずる。リーダーシップ、モチベーション、女性のキャリア発達について多くの研究を内外の学術雑誌に発表。著書『リーダーシップ』『モチベーション』。

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