職場の人間関係学
2009年 2月 23日

「考える部下」をつくる質問のコツ

一人ひとりが考えて動ける組織をつくるために、コーチングをどう活かせばよいだろうか。

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セッションを通して、西條氏の価値は「永遠の自己開発」であることが判明した。1度社会に出てからMBA、医学博士号を取得し、向学心が強く、興味の対象をとことん追いかける西條氏は、自分が変わり続けていくことに至上の喜びを感じるタイプ。そこで、自分の価値を高めること、経営者としてリーダーシップの質を高めるという2点にテーマをおき、人生と仕事の両面での目標実現を図っていった。

セッションを進めるうちに、西條氏の「永遠の自己開発」が、リーダーシップの場面で西條氏の内側に葛藤を生んでいるという事実が明らかになった。

「西條氏は持ち前の自己開発魂によって、各部門の専門スタッフと同レベルの知識を得ようとすることに力を割いていました。スタッフに任せきる、というよりも、ご自分の判断にこだわるところがあるように見えました。ところが、ある日のセッションで、部下を信頼し、権限を委譲したときにはじめて、リーダーとしての、大きな『絵』が見えることに気づかれました」(安部氏)

あるとき、スタッフと話をしていて、西條氏の口から次のような言葉が自然と出てきたという。

「あなたを助けるために、会社は何ができますか?」

スタッフにモチベーションを与え、潜在的な能力を顕在化させたいという西條氏の思いが、そのような質問に行き着いたのだと安部氏は考察する。

「その頃の西條さんは、スタッフのチームワークやモチベーション、生産性を高めるために自分は何ができるかということを一生懸命考えるようになっていました。それぞれの分野の専門家を束ね、力を引き出し、サポートしていく社長になられたと強く感じました」

コーチングは、自己主張と感情表出という2つの軸をもとに、コミュニケーション・スタイルによって、人を4つのタイプに大別して考える。

(1)人も場も支配しようとするコントローラー
  (2)人に影響を与えたいプロモーター
  (3)人間関係をもっとも重視するサポーター
  (4)分析と問題解決を重んじるアナライザー

西條氏は本来、このうち2つの要素を持つコントローラー・プロモータータイプだ。もともと人を勇気づけたり、フィードバックする力はあったが、人の話をじっくり聞いたり、自分と違う価値観を重視するということは苦手だった。しかし、コーチングという軸を持ったことで、相手の自立性を尊重するリーダーへと、変化を遂げていった。

「自己開発魂が嵩じて、認定コーチの資格も取得しました。はじめは自分の考えた答えへ導きたくなったり、論理でスタッフを説き伏せそうになりました。しかし、徐々に自分の感情を距離を持って観察することができるようになるにつれ脇役に回って相手を本当に大事に考えられるようになった。そうすると、自分の価値観を押し付けることはなくなり、相手の価値観の中で、能力を伸ばしたいと考えるようになります。今では、コーチとしてのあり方が自分の経営者としての姿勢であると実感するようになりました。『質問一発で社員をやる気にさせる経営者になりたい』と思っています」(西條氏)

コーチングは現在も続いている。安部氏は、自分を客観視するうえで欠かせない、コミュニケーションのパートナー、言ってみればもうひとりの自分のような存在だと西條氏は感じている。

「西條さんは、人の能力を引き出す、究極のゼネラリストになられたのだと思います」(安部氏)

ふたりの好例が示すように、コーチングスキルを活用すれば、メンバーの潜在能力を引き出し、行動につなげるマネジメントが実現するだろう。

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プロフィール

野崎 稚恵

ノンフィクションライター、翻訳家

のざき・ちえ●1967年新潟県生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。証券会社のディーラー、トレーダー、雑誌編集者を経て独立。経済、金融、経営分野で活躍中。翻訳本にレイ・クロック自伝『成功はゴミ箱の中に』がある。

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