
大前研一|虐げられるサラリーマン大逆襲への道
その手があったか!誰も豊かになれない日本の非常識
同じ大学を出たのに20年後の年収は「4倍以上」も違う。こんなことがまかり通っているのは、実は「日本」だけなのだ!
小川 剛=構成 若杉憲司、宇佐見利明=撮影
私の試算では、資産税と付加価値税で必要な税収はすべてカバーできる。前述したように、ざっと毎年50兆~70兆円の税収が見込めるからだ。これで複雑怪奇で不平等といわれる現行の税体系を一掃。不動産取得税だの、自動車重量税だの、ガソリン税だのといった、取りやすいところから取るやり方はおしまいとなる。また、世界的に見ても懲罰的な税率を持つ相続税、所得税、法人税などをすべて廃止できる。高速道路も国道0号線として一般道と同じように付加価値税で建設すればタダにできる。
以上が大前流の究極的な税制改革だが、そこに至る中間段階でも、税の不平等を解消するアイデアはいくつかある。
その一つ、一番手前にある方法として政府に提案しているのが、「サラリーマンの副業推奨」に伴う青色申告制度である。これは緊急経済対策としても、公共工事などよりもはるかに効果の大きな政策である。
すでに家電メーカーでは、減産に伴い社員の副業を容認化する動きが出てきており、東芝会長で日本商工会議所の岡村正会頭もこれを認めた。これまで副業禁止の就業規則で縛り付けて会社人間にしておいて、今さら副業で稼いでいいよとはふざけた話だが、副業の論議自体はもっとなされていい。
「寄らば大樹で会社の世話になろうと思うな。どこの会社に行っても通用するように、夜と土日は副業しろ」という経営者がもっと出てくるべきだし、イタリアのように「仕事は2つ持って当たり前」という風潮になるべきだと私は思う。たとえば、夫婦それぞれが仕事を持ちながら、プライベートで起業してもいい。
そして副業で稼いだお金は、全部きちんと「確定(青色)申告」させる。自宅の庭先に書斎兼事務所を建て増ししたら、その経費(減価償却)も認めるし、机もパソコンもソフトもインターネットの敷設費用も、全部経費で落とせるようにする。近所のアパートを事務所代わりに借りたら、その賃料も認めるし、クルマも減価償却できるようにする。
つまり、副業にかかった費用やスキル、資格を取得するための自己投資コストは、すべて経費に申告させて、普通のサラリーマンとして払った所得税から還付できるようにするのである。
副業を認めたら本業が疎かになるのではないか、というのは余計な心配。会社の仕事をしなくなったら、クビにすればいいだけのこと。私に言わせれば、副業に精を出して会社の仕事をサボるような人材は、もともとの能力・資質に問題があるわけで、そこは個々の会社できちんと評価すればいい。会社の事業や業務に対する守秘義務など、本業との線引きやモラルは就業規則にきちんと記して守らせ、それを破れば即クビとするのは当然のことである。
個々のサラリーマンが副業を持ち、各人が青色申告するようになれば、否が応でも納税意識を持つようになる。道州制への移行に伴って税制を抜本改革する際には、国民全員が確定申告すべきであると私は考えているから、いい準備運動になるだろう。
メリットはそれだけではない。自分に投資しない人、お金を使わない人には所得税は還付されないから、当然、消費が喚起される。クルマは売れるし、空き家も埋まる。景気対策として2兆円をバラ撒くより、はるかに即効性が期待できる。
所得税の国家税収は大幅に減るかもしれないが、今の調子でいけば「製造業900社トータルでマイナス1兆円の赤字」といわれる法人税の危機的状況の前では、所得税の問題など吹っ飛んでしまう。個人消費がGDPの60%以上を占める日本では、ここを刺激しないと景気対策にならない。今までほとんど効果がないことがわかっている公共工事をするくらいなら、税収は下がっても消費した人に報いるべきで、そのほうがよほど経済は活発になるはずだ。
迷路のように入り組んだ税体系をいじらなくても、サラリーマンが副業を持ちやすい仕組みにするだけで、実質的には大きな風穴が開く。サラリーマンの面構えや心構えも変わってくるはずだ。副業を持って自分で帳簿をつけるようになれば、会計の勉強になるし、何より経営のセンスが磨かれる。そうなると、定年後の職探しやリストラによる肩叩きに対する恐怖は激減することだろう。個人として独立した強い日本人をつくるのに、大いに役立つに違いないのだ。
大前 研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾
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