実践ビジネススクール
2009年 5月 18日

大前研一|赤字転落!貿易立国・日本の非常事態

大前研一の日本のカラクリ

貿易立国を支えた果敢な海外戦略が、皮肉にも赤字を助長させることにも。その本質は――。

たとえば繊維業。繊維業はもともとイギリスから始まったが、大西洋を渡ってアメリカ東部のニューイングランドに、そして次第に労賃の安いアパラチア地方など南部に移り、そこから日本、さらに韓国、台湾、インドネシアを経由して今はほとんど中国に集まっている。中国がダメになったらベトナムに行くだけで、アメリカにもイギリスにも戻らない。国境を越えた企業は本国回帰しないのである。

アメリカ化した日本企業がどうなるかといえば、恐らく同じことが起こるだろう。今や円が強くなってドル換算した日本の賃金は世界一だ。労働コストが世界一なのに十分な労働力を確保できず、派遣やパートが使いづらくなるように雇用関連法が改正され、正当な契約見直しを行ってもメディアから悪人扱いされる始末。企業が国内で雇用を生み出す理由は何もない。増減の調整が著しく難しくなってきたからだ。

当然、日本企業の海外流出は今後も加速する。しかし、顧客は国内に残っているから、海外で生産した製品を日本国内に逆輸入する。08年末から今年にかけての貿易収支の赤字の原因を世界的不況という特殊事情による一時的な現象と片付ける向きが強いが、私は違うと見ている。

戦後の一時期を除いて、日本は長らく貿易黒字に悩まされ続けてきた。不均衡是正をアメリカから何度も突かれて関税引き下げをはじめ、その他の政策を講じようが、円高が進行して一ドル480円を切ろうが、エネルギーコストが高くなろうが、月5000億円の黒字をひたすらキープする、いわば精力絶倫の輸出大国だった。

その強固な貿易構造が、国内企業の海外移転・現地化によって変わりつつある。つまり、日本の貿易構造そのものがアメリカ化してきているのだ。

貿易赤字の定着で外貨は減る一方に

貿易で外貨が稼げなくなったらどうするか。今の日本で2番目に外貨を稼いでいるのは海外投資からの利益配当だ。しかし日本は法人税の実効税率がこれまた世界で一番高いということで、利益配当を日本に持ち込まずに現地で使ってしまおうという動きが出ている。

これに関しては非課税(利益不参入)で国内に持ち込めるようにする、と言っているが、国内に持ち込んでも投資などの資金需要はほとんどない。少子高齢化で成長が見込めない国内マーケットに注ぎ込むより、海外の成長市場に使おう、という至極当然の戦略だ。すると、海外投資の利益配当も日本に戻ってこなくなる可能性がある。

さらに前述したように日銀が為替介入をやめているから、この面でも外貨の増加は見込めない。中国のように海外からの直接投資が殺到するわけでもないから、外貨準備を増やす手立てがないのだ。それどころか貿易赤字が定着すれば、この先、外貨は減る一方という状況も十分に考えられる。

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プロフィール

大前 研一

ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長

1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾

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