実践ビジネススクール
2009年 5月 18日

大前研一|赤字転落!貿易立国・日本の非常事態

大前研一の日本のカラクリ

貿易立国を支えた果敢な海外戦略が、皮肉にも赤字を助長させることにも。その本質は――。

だとすれば、これからは外貨準備の扱いには慎重を期すべきで、円安になったときにも、ドルを売って円を買う無駄な為替介入などしないほうがいい。持っている外貨を大事に使わなければならない時代がやってくるのだ。

日本人は手先が器用で、“ものづくり”がお家芸などというのは、もはや幻想でしかない。“匠”と呼ばれる博物館入りするような名人は確かにいるが、それは希少な存在だ。日本人の手先が器用というのは、農村から集団就職して都会に人が集まった50年も前の話で、今の若い世代はナイフで鉛筆一本削れない。ゲームにパソコン、受験勉強のおかげで視力も悪い。

業務系の事務作業、たとえばコンピュータに打ち込むオペレーター業務を日本人にやらせると1~2時間でくたびれて生産性が下がり、誤入力の率が急激に上がる。誤字脱字をしたり、インターネットアドレスのドットを落としたりするのだ。朝9時から仕事を始めても、10時半には「皆さん、机から離れてください。背伸びをしましょう」と、心身をリフレッシュさせなければ使えない。

「世界の工場」といわれて久しい中国だが。その国民性から問題も。
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「世界の工場」といわれて久しい中国だが。その国民性から問題も。

その点、中国人やベトナム人は忍耐強いし、仕事に対する意欲も強い。私は中国でBPOサービス(企業における一部の業務プロセスを一括して専門業者に外部委託すること)の会社を経営しているが、彼らは1日8時間業務をやらせても、ほとんど生産性が落ちない。そのうえ、「あと2時間残業したい人」と聞くと全員が手を挙げる。

しかも中国・広東省などで1000人規模の工場に行くと、メガネをかけた労働者はほとんど見当たらない。昨年1月に新しい労働法が施行されて今はそうはいかないが、視力の悪い労働者はクビにされたからだ。

意欲も根性も基礎的な身体機能も日本人はかなわない。今時、日本人は手先が器用だ、スキルがあるなどと思い上がっていたらアジアの国々に笑われる。今や日本のモノづくりは簡単にアジアに移植できるのだ。

日本の機械メーカーもよくない。匠の技術をコンピュータに取り込んで、コンピュータと機械の研修さえ受ければ誰でも匠になれるような加工機械を開発して世界中に輸出するから、日本はモノづくりの技術を保持できなくなってしまった。

大量生産の製品だけではなく、習熟が必要な製造業の拠点としても、今や日本は危機的な状況にある。日本には東京・大田区、東大阪市、長野県諏訪湖周辺、静岡県浜松市周辺と、モノづくりを支えてきた部品業の大きなクラスターが4カ所あるが、どこも空洞化が激しい。最盛期には8000社を超えた大田区の中小企業は今や3000社しか残っていない。半分は潰れ、半分は海外に流出してしまったのだ。

日本企業のアメリカ化は今後も歯止めがかからないだろう。むしろ、歯止めをかけるという発想は捨てるべきなのかもしれない。少子高齢化が進む国内だけでモノづくりを完結しようとするほうに無理があるのであって、今の状況であれば日本から資本を持ち込んで、アジアの国々を第二、第三のモノづくりの故郷にしていくことを考えるべきだろう。

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プロフィール

大前 研一

ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長

1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾

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