
武田國男:「傍流時代」の蓄積が飛躍の源泉に
経営者たちの四十代:武田薬品工業会長[2]
「組織の運営を任された人間がいい恰好をし、言葉を飾り始めたら、ろくでもないことが始まる」
経済ジャーナリスト 街風隆雄 撮影=門間新弥
創業家の三男坊は「お飾りポスト」に
40歳のときに、武田薬品工業の後継社長候補だった長兄が急死し、7カ月後に会長だった父も亡くなった。前回で触れたように、それがビジネスマンとしての転換点だった。(>>前回の記事はこちら)
よく、それまでの会社生活のことを聞かれると「何もしないで、遊んでばかり。ただ漫然と生きていた」と答える。たしかに、終業時間がくるやいなや、さっ、と職場から消えていた。ゴルフの練習場に通い、映画館に籠もり、傍目にも「遊んでばかり」とみえたかもしれない。
だが、実は、頭や心の中まで「遊んでいた」わけではない。上司や同僚の仕事ぶりをみながら、会社の欠陥を見抜き、「自分だったら、こうするのにな」と考え、静かに事業家としての判断力を鍛えてもいた。
「伏久者飛必高」(伏すこと久しき者は、飛ぶこと必ず高し)――長い間、草地にうずくまっていた鳥も、ひとたび飛び立てば、必ず高く舞い上がる。人間も、たとえ陽の当たらない傍流に長くいても、意欲を失わずに力を蓄えておけば、チャンスがきたときに一気に力を発揮できる。中国・明時代に儒教、道教、仏教の教えを融合した洪自誠の『菜さいこんたん根譚』にある、そんな励ましの言葉だ。
いま、日本の職場は内向きの「思考停止」のただ中にある。消費者のニーズが多様化し、個別の商品・サービスでの対応が不可欠になったにもかかわらず、いまや通用しなくなった「大量生産・大量販売」と同じ発想の「マニュアル依存症」が蔓延し、自分の頭で考えることをしない日本人が増えた。人と正面から向き合うと、自らに欠けている点が露呈すると恐れ、隣席の上司や同僚にまでe-メールで報告・連絡・相談をする「会話回避症」も、深刻だ。
街風 隆雄
経済ジャーナリスト
つむじ・たかお●1947年生まれ。71年慶応義塾大学経済学部を卒業後、朝日新聞社に入社。経済部記者として産業キャップ、金融キャップ、経済部次長、静岡支局長、本社編集委員などを歴任。2007年独立。著書に『私の源流―トップ経営者からのメッセージ』(朝日新聞社)などがある。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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