
逆風に勝つ「ビジネスの本質を見抜く力」を養う
世の中の読み方
ビジネス・インサイトこそ、ものごとの本質を見極めるために重要な役割を果たす。
流通科学大学学長 石井淳蔵=文
未曾有の不況が世界を襲っている。経営者は過去の成功事例や、厳密なデータ分析に基づき判断を下す「石橋を叩いて渡る」舵取りに陥りがちではないだろうか。
100年に一度の不況である。経営者は慎重になるだろう。しかし、実証主義の経営は、戦略が市場の動きの後追いとなり、知らないうちに既存市場の枠内で発想してしまう限界がある。組織の成長には、ビジネスの本質を見極める力が必要になる。
人には、種々の知識、情報、課題を総合的に勘案しながら、「将来を見通していく力」――ビジネス・インサイトが備わっているのではないか、というのが拙著『ビジネス・インサイト』のもっとも重要なメッセージだ。このビジネス・インサイトこそ、ものごとの本質を見極めるために重要な役割を果たす。
本著の骨格となる概念は『暗黙知の次元』を参照されたい。化学者であり、哲学者でもあったマイケル・ポランニーの著だ。
ポランニーは仮説検証のプロセスより、もっと大事なプロセスがあることを指摘する。それは「“意味ある全体像”を暗黙裡に構成する力」だ。“意味ある全体像”とは、断片的な情報を有機的につなげて、新しいビジネスのヒントに変える力といえる。ポランニーが言わんとしたことは、まさにビジネス・インサイトと同じである。
ポランニーはこうした力を発揮するための2つの条件として、「能動的にかかわること」「内在化すること」を示している。例えば自分がかかわっている仕事があったとしよう。その仕事について常に問題意識をもち、顧客の立場に立って考えることが、深い洞察力をもたらすことになる。ビジネス・インサイトを得るためのカギともいえる。
その例を小倉昌男氏に見よう。ヤマト運輸の元社長で、家庭用小荷物集配事業に参入し、宅急便事業を日本に定着させた企業家である。
氏の著書『小倉昌男 経営学』に、そのエピソードはある。
マンハッタンの4つ角に同じ会社の集配車が4台停まっていた。多くの人はそんなことに気づかないだろう。気づいたとしても「この会社がんばっているな」と思って通り過ぎてしまうのではないだろうか。
小倉氏はそこではっと閃く。「宅急便システム」のカギは「集配密度を上げる」「車両を増やし、各担当の受け持ち区域を狭く取る」ということ。マンハッタンの風景という断片から「宅急便システム」という“意味ある全体像”を描き出したのだ。
なぜ小倉氏にはビジネスのヒントが閃いたのか。顧客の立場に立ち、荷物をより早く、効率的に送るにはどうすればよいかという問題意識が常に念頭にあったからであろう。
翻って自分の職場について考えてみよう。この不況で、部下のモチベーション低下に悩んでいる読者諸氏も多いのではないだろうか。
この場面にもビジネス・インサイトへの意識が有効だ。例えば、いまの仕事はどんな意味があるのか部下に問いかけ、部下の立場に立って自らも考えてみる。それによって部下自身の問題意識を高め、やる気を引き出せるかもしれない。
『小倉昌男 経営学』 小倉昌男著 日経BP社 本体価格1400円+税
『暗黙知の次元』 マイケル・ポランニー著 ちくま学芸文庫 本体価格900円+税
『ビジネス・インサイト』 石井淳蔵著 岩波新書 本体価格780円+税
石井 淳蔵
流通科学大学学長
いしい・じゅんぞう●1947年、大阪府生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。神戸大学大学院経営学研究科教授などを経て、2008年4月より、流通科学大学学長。専攻はマーケティング、流通システム論。著書に『ブランド』『マーケティングの神話』『営業が変わる』などがある。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
絶好調企業は必ず効果的な「朝礼」をしている!レポートはこちらから






























