
GM破綻で潤う「時給9万円」の弁護士たち
堀田佳男の「オバマの通信簿」【12】
政府はGMが競争力のついた自動車メーカーとして生まれ変わることを期待する。
文=堀田佳男
オバマ大統領の一連の言動をみる限り、昨年中にGMを民事再生法のもとで倒産させたかったように思える。だが、ブッシュ大統領が年末にGMとクライスラーに1兆5,000億円もの税金を投入して救済への流れを作ってしまった。単に潰せばつぎ込んだ税金は泡と化す。政府からの支援は総額5兆円にも達する見込みである。けれども、GMの倒産によって潤う分野もある。法曹界である。
GMは破産法11条の発表以前から、すでに大手法律事務所と申請書類の準備を進めていた。調べた限りでは、ニューヨークとシカゴ、さらに本社のあるデトロイトの法律事務所など、少なくとも6事務所が民事再生に関与していた。その中には昨年のリーマンブラザースの破産手続きに関与したウェイル・ゴッドシャル&マンジャスも入っている。同事務所は世界21拠点に1300人の弁護士を抱える最大手の一つだ。
今回の再生劇はアメリカ産業界で史上最大といえる破産手続きになる。01年に巨額の不正取引と不正経理で破たんしたエンロンの弁護士費用が約750億で、昨年のリーマン破産の費用は約1400億円。今回のGMでは1900億円に達すると予測されている。
ウェイル・ゴッドシャル&マンジャスの破産法専門の弁護士(パートナー)になると、最高時給で950ドル(約9万円)という額を請求してくる。破産手続きには弁護士の他にも経営コンサルタントや会計士なども関与するため、費用は膨大な額になる。倒産という一つの悲劇が別の経済的側面で利益をもたらすのである。
もちろん憂慮はある。GMの破たんによって多くの社員だけでなく、ディーラーの閉鎖による失業者が出る。政府は下請け企業への財政支援を約束しているが、取引先の連鎖倒産は数十社ではきかないかもしれない。
心配ごとはそれだけではない。新生GMの60%の株は政府(財務省)が所有する。事実上の国有化である。 オバマ大統領がもっともやりたくなかったことだ。
「政府はこうしたことは下手なんだ」
この発言からも国有化は大統領の本来の意向とかけ離れていることが分かる。
それでも、ホワイトハウスはGM破綻に関しての文書で、「GMにとっての歴史的な1日が踏み出された。古いGMは終焉し、新生GMが始まる」と記した。
政府はGMが競争力のついた自動車メーカーとして生まれ変わることを期待する。いや、復活してもらわねば困るという姿勢だ。同時に、破たんを新たな始まりとみなし、経済活性への潤滑油にするという。こうした前向きな考え方はいかにもアメリカらしい。
だが本当に再生できるか。GMの今後がアメリカ経済を占う指標の一つになりそうである。
堀田 佳男
1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学 大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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