
大前研一|本物の道州制、ニセモノの道州制
大前研一の日本のカラクリ
「地方の時代」が叫ばれる一方、その主体となる統治機構は、完全な制度疲労を起こしている。
小川 剛=構成 加藤雅昭=撮影 AP Images=写真
今の「統治機構」は幕藩体制の残骸だ
日本の統治機構というのは、明治維新と終戦後間もない時期にマイナーな手直しがあったものの、基本的には江戸時代の幕藩体制のままできた。
東北地方を見るとわかりやすい。自治体こそ若干集約されて東北六県になっているが、秋田なら大館能代空港と秋田空港、山形なら庄内空港と山形空港、青森は津軽藩と南部藩に一つずつという具合に、幕藩体制の単位そのままに同一県の北と南に空港が設置されている。
日本の狭い国土に120もの空港と1300もの貨物港があるのは、まさに幕藩体制の残滓。交通の便のいい福岡空港があるのに近隣の佐賀や北九州にも空港ができるのは、筑前、肥前、豊前という枠組みが根強く残っているからなのだ。水利権のようなものは、聖徳太子の時代の大宝律令で制定された縄張りが今も続いている、という研究もある。
また、行政において一番大事なのは組織単位だが、日本ではそれが確固たる形に決められていない。
明治新政府による廃藩置県によって、「47都道府県」という行政区分が導入された。しかし都道府県が何かということを明確に定義した文書は、何もない。都と道と府と県とは、何がどう違うのか。行政単位として権限に違いがないのなら全部県と呼べばいいのに、なぜ北海道は「道」で、東京は「都」で、大阪や京都は「府」なのか。何の法的根拠も持っていないのだ。
「市町村」もそうだ。一般に都道府県の下位にある概念と思われているが、これについても何ら規定されていない。政令指定都市では市と呼ばれていても、県と同等の力がある。神奈川県知事が横浜と川崎に口が出せず、“湘南市長”と揶揄される所以である。役場のある村もあれば、ない村もある。役場もなく自治会だけの町もあれば、町議会があって、町長選挙まで実施している町もある。しかし、何の権利・根拠があって町議会や町長が存在するのかも不明だ。逆の言い方をすれば、そんな町議会や町長は要らないという問題提起もできるだろう。
今回の定額給付金の支給では、全国の市役所が窓口になった。では、市が基本的な行政のユニットなのかと思えば、東京都では定額給付金の窓口は区。市と区が同格なのかといえば、これも定かではない。横浜市には神奈川区や鶴見区など18の区があるが、こちらは東京の区とは違って定額給付金の窓口にはなっていない。東京・千代田区は区長も議会もあるが、神奈川区は役場と市で任命された区長がいるだけである。同じ区でも行政単位としては窓口以上の機能は果たしていないのだ。
「皆さんが暮らしている地域社会の安心と安全が地方行政の重大な任務でございます」と言いながら、都道府県や市町村の権限がきちんと規定されていないから、住民サービスの担い手も整理されていない。
大前 研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。現在、自ら立ち上げたビジネス・ブレークスルー大学院大学学長。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。 >>大前経営塾
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