
日立トップ交代劇に見る経済危機「攻めの活用法」
合理的に事前に考えようとする人ほど、問題解決能力を過小評価しがちである
日立はポテンシャルがあるのに、長く低迷しすぎていると思われていた企業であった。
東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授 伊丹敬之=文
産業そのものの発展への契機に経済危機がなった例もいくつもある。オイルショックに例をとれば、その一つが日本の自動車産業の国際展開である。
オイルショックで原油高になり、原油輸入依存度の高い日本経済の発展ポテンシャルが大きく落ちた。その結果、日本は高度成長から安定成長へと発展軌道の修正をするが、それは国内市場の成長鈍化を意味した。そこで、企業成長を維持するには海外市場へと活路を求めるしかなかった。それが、アメリカ市場だった。そして、日本車の燃費のよさは日本企業への大きな追い風となったのである。
あるいは、日本の半導体産業の70年代後半からの発展もオイルショックによって省エネ・省資源が多くの産業で緊急の課題となったことに後押しされている。省エネ・省資源のためにはエネルギーなどの使用現場での細かな計測と制御が必要となる。それは、半導体を中心とするマイクロエレクトロニクス革命への需要を下支えした。
コンビニと宅配便はこの30年間で日本人の生活をきわめて大きく変えた新事業展開の例として多くの人のリストのトップにくるものであろう。日本の自動車産業の発展、半導体産業の発展は、日本全体の産業構造を前向きに変える大きなインパクトを持った。
いずれも、経済危機へのレスポンスが、その後の事業発展に大きなプラスになったいい例である。
なぜサプライズなトップ交代が多いのか
経済危機の第二の効用である経営陣の刷新効果は、なかなか表立っては語られることが少ない。しかし、今年に入って、サプライズと受け取れるトップ交代が多くなっている。その最大の例が、日立製作所であろう。2月にいったん会長・社長の留任予定を発表しながら、3月中旬には会長・社長退任、そしてグループ会社に出ていた元副社長の社長への返り咲き、さらに2人の、すでにグループ会社へ出ていた元役員を本社取締役に戻す、といった一連の人事を発表した。年齢的にも退任する社長よりも新社長が上、というのも常識的なトップ交代ではない。日本の製造業で過去最大級の最終損益赤字(7880億円)という危機的状況がなければ、ここまで異例のトップ交代はなかっただろうと想像される。
日立はポテンシャルがあるのに、長く低迷しすぎていると思われていた企業であった。経営改革のテンポも遅かった。そのために今回の経済危機がもたらした外圧は、日立にとくにきつく働いてしまったのであろう。
伊丹 敬之
東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授
いたみ・ひろゆき●1945年、愛知県生まれ。一橋大学商学部卒業、カーネギーメロン大学経営大学院Ph.D。一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2008年4月より、東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授。著書に『経営を見る眼』『経営戦略の論理』『日本型コーポレートガバナンス』などがある。
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