実践ビジネススクール
2009年 6月 23日

日立トップ交代劇に見る経済危機「攻めの活用法」

合理的に事前に考えようとする人ほど、問題解決能力を過小評価しがちである

日立はポテンシャルがあるのに、長く低迷しすぎていると思われていた企業であった。

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日立以外にも6月の株主総会でトップ交代する企業は多い。今年はとくに多いという印象が強い。3月の日立のトップ辞任の報道の直後に、ある企業の方に「今年はまだまだサプライズのトップ交代が多く出てきそうな気がします」と言ったことがある。その通りになったようだ。

今年のトップ交代のすべてが経済危機による赤字の大波にさらわれた例ではないだろう。すでに社長定年の内規などにより交代のタイミングになっていたところへ、大きな赤字が重なったという例もあろう。あるいは、本来は辞めなくてもいい経営者なのだが、いさぎよく赤字の責任をとった人もいるだろう。一方で、本当は交代したほうがいいのに何かと理由をつけてまだ居座っている経営者もいそうである。しかし、経済危機の第二の効用が機能していると考えるに十分なマグニチュードで異例のトップ交代が起きていると言えるだろう。

もちろん、すべてのトップ交代が吉と出るものとも限らない。危機の効用の第一についても、多くの新しい事業構造への挑戦が失敗に終わるだろう。そうした失敗のリスクがあるからこそ、こうした経済危機の後押しがあってもなお、挑戦や変革をためらう人が出てくる。

変えることのリスク、何も変えないことのリスク、その2つをどう考えるか。

人間は、自分たちが持っている問題解決能力をしばしば過小評価する存在のようである。思い切って大きな変革をすれば、たしかにいろんな障害や不具合が出てくる。その障害や不具合ばかりを正確に予想するから、一歩を踏み出せない。しかし、踏み出さないと、何も見えてこない。その取り組みを始めるからこそ、そこでの苦労が人間の解決能力を引き出してくれる。しかし合理的に事前に考えようとする人ほど、そうした問題解決能力を過小評価しがちなのである。

こうして人間が自分たちの問題解決能力を過小評価しがちな存在であることを考えると、経済危機の効用の本質が見えてくる。危機的状況の赤字の大きさが変革から生まれる障害の大きさに目をつぶらせ、問題解決能力を引き出す道へ人間を引きずり込むのである。

動かなければ、何も見えてこない。動けば、努力が始まる。動いてみて具合が悪ければ、また変えればいい。

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プロフィール

伊丹 敬之

東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授

いたみ・ひろゆき●1945年、愛知県生まれ。一橋大学商学部卒業、カーネギーメロン大学経営大学院Ph.D。一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2008年4月より、東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授。著書に『経営を見る眼』『経営戦略の論理』『日本型コーポレートガバナンス』などがある。

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