
日立トップ交代劇に見る経済危機「攻めの活用法」
合理的に事前に考えようとする人ほど、問題解決能力を過小評価しがちである
日立はポテンシャルがあるのに、長く低迷しすぎていると思われていた企業であった。
東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授 伊丹敬之=文
不景気は過去の甘さを考え直す機会でもある。経済危機の効用としての企業の改革には、2つの方向性が見られる。改革への取り組みでの苦労こそが人間の問題解決能力を引き出すと筆者は説く。
不況を機に生まれたコンビニと宅配便
景気循環が経済にはつきもので、その循環の中で不景気になることには前向きの効用がある、と喝破したのはシュンペーターであった。不景気が過去の甘さを考え直す機会をもたらし、また新しい方向へと踏み出すための背中を押すからである。
今回の経済危機は、ふつうの景気循環よりはさらに厳しいものである。世界経済の構造変化すら予感させるもので、単純な循環過程ではないことを多くの人が感じている。だからこそ、シュンペーターが言った以上に、大きなインパクトを持ちそうである。それを、正しい方向への大きな一歩につなげられるか、それとも周章狼狽して混乱に拍車がかかり、さらに破滅への道を歩むか。経営のかじ取りがまさに要になっている。
危機の効用として企業の改革が起きるのには、大きく分けて2つの方向がある。一つは、新しい事業構造への挑戦である。危機の局面だからこそ、多少の無理があると見えても、あえて新しい事業、新しい市場、あるいは産業全体の再編成へと一歩を踏み出そうと組織として決意できる。ほかにやりようがないのである。
第二の方向は、経営陣の大幅刷新である。組織の内外で秘かに具合が悪いと思われていたトップマネジメントが、経済危機のもとの大赤字で最後の引導を渡され、交代を余儀なくされるのである。その場合、新しい経営陣のもとで新しい事業構造への挑戦も起きるかもしれないが、最大の効用は組織内部の経営改革が進み、組織のモラールが上がることであろう。
第一の効用の例として、35年前のオイルショックの後の不況の中で蒔かれた種がその後に大きく花開いた例がいくつかある。たとえば、1974年に第1号店を東京・豊洲に出店したセブン-イレブンである。その後、さまざまな困難の中で導入当初のコンセプトとはかなり違う日本型のコンビニエンスストアをつくり出して、日本人の生活パターンを大きく変えるまでのインパクトを持った。
また、ヤマト運輸が宅急便へと乗り出したのも、75年のことだった。それまでの主力事業であった商業貨物輸送がオイルショック後にジリ貧になり、75年に個人用の宅配便事業に本格的に乗り出すことを決めた。それがあっという間に日本中に広まり、いまでは宅配便なしでは日本人の生活が成り立たないほどに大きなインパクトを持った。
伊丹 敬之
東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授
いたみ・ひろゆき●1945年、愛知県生まれ。一橋大学商学部卒業、カーネギーメロン大学経営大学院Ph.D。一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2008年4月より、東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授。著書に『経営を見る眼』『経営戦略の論理』『日本型コーポレートガバナンス』などがある。
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