
野副州旦:胸にともる「お客の近くに」の灯
経営者たちの40代:富士通社長[2]
どんなに厳しい仕事でも、楽しみながらやりたい。「頑張る」などという無理やりやるような言葉は、嫌いだ。
経済ジャーナリスト 街風隆雄 撮影=門間新弥
家族と犬を愛す仕事人間
毎朝、2匹の小柄な犬と散歩に出る。「これは、私の義務」と言う。
前号で触れたように、40代前半に米ワシントンで勤務した。そのとき、妻と長男、長女とともに、飼っていたパグ犬も連れて行く。30歳前後で経験したニューヨーク勤務のときは、意に反した単身赴任。命じた上司は、海外勤務の経験もなく、「奥さんを呼んだら、絶対にダメ。嫌なら、辞めろ」とまで言った。海外生活の苦労などには思いも巡らせぬ、感性に欠けた人だった。
そんな、滅私奉公のようなやり方には、強く反発を感じる。どんなに厳しい仕事でも、楽しみながらやりたい。「頑張る」などという無理やりやるような言葉は、嫌いだ。ニューヨークでは何度か「辞めようか」と思った。だが、思い直す。そういう理由で辞めるのは、仕事から逃げた形になる。
ワシントンへは、当然の家族同伴だった。長女は小学5年生。現地校に通った彼女は、言葉がわからず、学校で黙ってすごす。その分、帰宅すると、パグ犬に話しかけ、散歩に連れて行く。ある日、同級生たちが彼女と犬をみつけて、「わーっ」と言って囲んだ。犬が可愛かったためだろうが、そんなことを重ねるうちに、娘は英語を覚え、友だちが増えていく。登校拒否にもならず、家族がぎすぎすせずに済んだのは、つくづく、パグ犬のおかげだと思う。
その犬が病気になり、車が2台買えるくらいのお金をかけて治療したが、帰国後に死んだ。以来「もう、犬を飼うのはやめる。死んだときに悲しい」と思っていたが、ある日、ペット屋の前を通ると、売れ残っていたフレンチブルがいた。可愛くて、「お前、うちに来る?」と言ってみたら、「来る」と答えた。そんな気がして、買ってしまう。一人暮らしの母にもチワワを買ってあげたら、「全然、鳴かないので気持ち悪い」と連れてきた。2匹には、奥さんが「海」「風」と名付けた。「カイ」「フウ」と読む。
街風 隆雄
経済ジャーナリスト
つむじ・たかお●1947年生まれ。71年慶応義塾大学経済学部を卒業後、朝日新聞社に入社。経済部記者として産業キャップ、金融キャップ、経済部次長、静岡支局長、本社編集委員などを歴任。2007年独立。著書に『私の源流―トップ経営者からのメッセージ』(朝日新聞社)などがある。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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