
「アートの五輪」第53回ヴェネチアビエンナーレ(2)
ビジネスマンのための「現代アートABC」【第29回】
ビエンナーレの魅力の一つは、現代アートのイベントでありながら、実は世界の政治経済の縮図になっている点です。
山口裕美=文
楽しめるという点ではアレクサンドラ・ミールの作品がダントツです。自由に持って帰れる絵葉書を100万枚用意したのです。すべてにヴェネチアと書いてあるものの、よく見てみるとハワイやカナダ、オーストラリアなどの水のある場所を「ヴェネチア」に仕立てている作品となっています。
奥に進むと、東洋的な数珠が眼に飛び込んできます。パリ在住の中国人アーティスト、ホワン・ヨンピンの「ブッダの手」と題された立体作品です。漢方薬にも使う植物を巨大にした作品で、人間の手のようにも見えて強い印象を残す作品で、同じ部屋に展示された窓枠に美しいガラスをはめ込んだスペンサー・フィンチの「ムーンライト」、そして同じくフィンチの作品でまるで花のように見える電球の作品と全体的に美しいコラボレーションとなっています。大人な雰囲気とでもいいましょうか。
私のイチオシは、彼らの部屋の少し手前にあった真っ暗な部屋の作品、チュ・ユンの作品です。真っ暗な中にホタルの光りのような小さい明かりがあって、それを目で追ってゆくうちに、部屋には冷蔵庫やポット、パソコンなど生活家電が置かれていることに気づきます。光の正体は、待機電源の光だったのです。北京在住で今年32才という若いアーティストですが、お金をかけてはいないけれど、エコロジーや消費社会をシャープに表現していると感じました。
企画展の第2会場となっているのがジャルディーニ公園の中の旧イタリア館です。今回、大幅にリニューアルされ、広さは約2倍になり、アーティストに依頼して、ショップ、カフェ、スタディルームなどが新設されました。
その中のカフェを担当したトビアス・レーベルガーが個人部門での金獅子賞を受賞しました。フランクフルト在住のレーベルガーはディレクターのバーンバウムが一番気心の知れたアーティストでしょう。カフェそのものは、ある意味、都会の中でのカモフラージュがテーマではないか、と思います。白と黒の強いストライプにオレンジや黄緑色のさし色が入っていて、完成したパズルを一度、壊してもう一度、あらたに組み直したような斬新なカフェとなっています。
山口 裕美
Yumi Yamaguchi●アートプロデューサー&アートジャーナリスト。アーティストをもっとも近くから応援するその活動から「現代アートのチアリーダー」の異名を持つ。ウェブサイト、トウキョウトラッシュを主宰。アート系NPO法人芸術振興市民の会(CLA)理事。エレクトロニックアートの祭典「eAT金沢99」の総合プロデューサー、2004年ARS ELECTRONICA ネットビジョン審査員。著書に「TOKYO TRASH web the book」(美術出版社)、「現代アート入門の入門」(光文社新書)、「COOL JAPAN-疾走する日本現代アート」(BNN新社)、「芸術のグランドデザイン」(弘文堂)、「Warriors of Art」(講談社インターナショナル)、最新刊「The Power of Japanese Contemporary Art」(アスキー)がある。
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