
「分裂」したマイケル、「統合」したオバマ
堀田佳男の「オバマの通信簿」【14】
彼の死後、世界中の人がマイケルの大ファンであったかのような報道が目立つが、私はむしろ醒めていた。
文=堀田佳男
もちろんすべての黒人がこの考え方を共有するわけではない。圧倒的な歌唱力と天性のダンスセンスを持っていた不世出の天才の信奉者は多い。万人を狂喜させたマイケルの音楽と踊りは人の心中で神格化され、永遠に残る。
ただ理知的な部分において、マイケルは91年にリリースした「ブラック・オア・ホワイト」で「人間は黒人でも白人でも関係ない」と歌ったが、白人へのこだわりはただならぬものがあり、歌詞内容と私生活は矛盾したままだった。離婚した2人の妻は共に白人である。
さらに幼児虐待容疑で訴訟問題も起こした。無罪判決が出されたが、世界のトップに立ったエンターテイナーは自己矛盾に答えを出せぬまま、自己が「分裂」する方向へ進み続けて死に至った。名声と富を手にいれた後の人生は黒人ではないがエルビス・プレスリーやマリリン・モンローに似ている。
世界中を歓喜させたもう一方のオバマは、タイガーウッズなどと並んで黒人としての自己とアメリカという国におけるスター像を「統合」するかたちで成功者となった。その点でマイケルとは対極に位置する。
マイケルとの明確な違いは、オバマは黒人として自分を肯定的に受け取っていることである。政治家とエンターテイナーという違いはあっても、オバマは黒人である己と正面から向かい合っている。
時代的背景も影響している。オバマの登場が30年前であったら、いまの地位には到達していなかっただろう。その点で、マイケルはオバマのために人種差別を緩和させる助走路を敷いたといえなくもない。当時、アメリカの黒人と白人の間には今よりも確実に大きな亀裂が走っていた。だがマイケルの登場によって、両サイドにいく層ものツナギができた。オバマはそこから出発している。
アメリカを「統合」させようとの強い意志を抱えたオバマは、内部に「分裂」の要素を感じさせない。あるとすれば外部からの挑発であるが、現在の大統領にはそれを跳ねのける強靭さがある。今後もそれが維持されることを祈りたい。(敬称略)
堀田 佳男
1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学 大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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