
リーマン買収の狂騒劇と陰の一幕
リーマンの誤算、軋む世界戦略〔野村証券【4】〕
「リーマン買収は野村にとってタヌキ(狸)みたいなもの。つまり、タが抜かれてヌキだけ残る」
ノンフィクションライター 児玉 博=文
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買収でアップする人件費2000億円
同買収で野村が抱え込んだものがある。
まず08年10月6日、インドの高速売買システム買収の件だ。野村本体の評判はすこぶる悪い。「いくつもピースが抜けているパズルを渡されたようなものだ。うまく機能していない」。なぜなら、この売買システムのホストコンピュータがあるのはインドではなく、米ニューヨークだったからだ。北米地域のリーマンは英バークレーズ証券が買収したため、野村はバークレーズにシステムの使用料を払い続ける必要ができてしまった。買収後、やっとそれに気づいた他の幹部から「誰がデューデリジェンスをしたんだ」と責任を問う声が上がったという。
積みあがる人件費も大きな問題だ。リーマン買収後に、新たに抱えた社員は約8000人。年収が億単位の契約社員から数百万円の社員までばらつきはあるが、平均すると2500万円程度になる。全体では、2000億円のコストアップが予想される。元リーマン社員平均給与と、野村HDの平均給与(39.6歳ベースで1145万円(四季報))を比べると、2倍以上開きがある。しかも、元リーマン社員は2年間野村に在籍を保証され、転職活動は可能だ。霞が関の元次官経験者は、こう一笑する。
「リーマン買収は野村にとってタヌキ(狸)みたいなもの。つまり、タが抜かれてヌキだけ残る。結局、外資に“ヌかれた”だけで何も残りませんよ」
迷走を繰り返す“すかいらーく”案件
リーマン買収の狂騒劇の陰で、ある一幕があった。各部門の報告の一つに06年にMBO(経営陣による企業買収)によって株式を非上場化し、事業再建に乗り出した外食大手“すかいらーく”の一件だ。このMBOは、野村プリンシパル・ファイナンスと英国系投資ファンドであるCVCキャピタルパートナーズが出資するSPC(特定目的会社)が株式を買い取る仕組みで、買収総額は2700億円と国内最大のMBO案件で、野村が自己資金を投じることでも注目された。
しかし、野村の名を高めるはずだったこの大型案件は迷走を繰り返す。一旦経営から身を引くも、社長に返り咲いていた横川竟が、野村の意向によって解任される騒動に至る。野村は威信が失墜しただけでなく、実質的な損失も被った。08年度第1四半期においてプライベート・エクイティ投資先関連でおよそ400億円の税引前損失を出しているが、これには少なからず「すかいらーく」株の評価損が含まれている。
児玉 博
ノンフィクションライター
こだま・ひろし●1959年生まれ。早稲田大学卒業。著書に『“教祖”降臨|楽天・三木谷浩史の真実』、『幻想曲 孫正義とソフトバンクの過去・今・未来』がある。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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