
なぜ仕事の早い人は酒や煙草にはまるのか
注目理論が斬る「職場のナゾ、お金の不思議」:時間割引率
<10/5最新号からチョイ読み>せっかち度、すなわち時間割引率が高い人ほど、近視眼的な行動に走りやすい。
京都大学大学院経済学研究科教授 依田高典 構成=山下 諭 撮影=川島英嗣
今日の100円か、1年後の150円か
今日100円を受け取るか、1年後に同じ100円を受け取るかと言われれば、誰でも今日受け取ったほうがいいと言うだろう。しかし、現在の100円と1年後の110円とどちらがいいかと言われたらどうするか。さらに、1年後の金額を130円にしたらどうだろう……。
こんなふうに受け取れる金額を少しずつ増やし、いくらまで上げれば1年待てるかを調査する。例えば、今日の100円と1年後の150円が満足できる等価だったとしよう。この比率が「時間割引率」になる。
時間割引率とは、将来を「割り引く」割合のことだ。現在の利得と将来の利得の交換比率を表すが、その比率は利子率で測るので先の例でいえば今日の100円と1年後の150円が等価だったとすれば、割引率は50%となる。
冷静に考えれば、100円より150円のほうが、価値が高い。それならば今日我慢して、1年後に150円を受け取ったほうがいいと思うはずだ。しかし、人間は誰しも、将来の利益より、目先の利益を優先する傾向を持っている。時間割引率はそんな人間の「せっかち度」を測るモノサシでもある。
人間なら、誰しもある程度はせっかちな性癖を持っているものだ。そもそも人類に農耕という、長期的な利益を待つシステムが確立される以前の社会では、将来のことなどより、目の前のチャンスを逃さない人のほうが生き残る確率が高かった。人間がせっかちなのはこの頃の名残であると考えられる。人間だけではなく、ハトやネズミのような動物も同じような性向を持つ。
ただし、せっかちの度合いには明らかに個人差がある。せっかち度、すなわち時間割引率が高い人ほど、近視眼的な行動に走りやすい。
せっかちな人の利点はどこにある?
わかりやすい例をあげよう。ストレスの多い現代社会で、イライラを手っ取り早く解消するために煙草を一服、という人は多い。ところが喫煙は肺がんなどを含めた健康リスクを高めることはすでに科学的に証明されており、よく知られている。
こう考えると喫煙は、目先の、満足(ストレス解消)と引き換えに将来の利益(健康)を低めることになりかねない。それでも煙草を吸うという行為は、まさにせっかちな行為である。
喫煙という行為の度合いと、時間割引率の相関性を調査してみた。
依田 高典
京都大学大学院経済学研究科教授
いだ・たかのり●1965年生まれ。京都大学経済学部卒、同大学院経済学研究科修了。同大学院経済学研究科助教授などを経て、2007年から現職。著書に『行動健康経済学』(共著)など。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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