
米金融大手のCEOの年収は、いまだに社員の300倍
堀田佳男の「オバマの通信簿」【20】
複雑化した金融商品を売りまくり、稼げる限りのことをする利益先行型の経営手法が、世界中から批判を浴びたはずだった。
文=堀田佳男
ウォールストリートは何も変わらず――。
ワシントンとニューヨークに足を運び、エコノミストや経済学者と話をして得たなかば常識化した事実である。
リーマンショックから1年がたち、アメリカ政府から税金を注入されて命拾いした金融機関は、みずから襟をただしているかに思われた。複雑化した金融商品を売りまくり、稼げる限りのことをする利益先行型の経営手法が、世界中から批判を浴びたはずだった。しかし1年もすると、喉元をすぎた熱さはもう覚えていないらしい。
専門家たちの中には、金融機関のカネへの貪欲な執着さからくるシステムの機能不全はこれからも避けられないとの意見がある。それは主に2つのことによって端的に示されている。
一つはAIGやJPモーガン・チェイス、バンク・オブ・アメリカといった金融大手CEOの収入が、相変わらず10億円以上に達していることだ。金融機関トップ20に席をおく役員100人の2008年の平均収入は1380万ドルで、07年の1910万ドルよりは下がったものの、一般市民の常識から大きくかけ離れている。
本来であれば、民間企業なので役員がいくら稼ごうが勝手ではある。ただし、それは財務状況が健全で、政府から支援を受けていない場合である。昨秋、政府からの救いの手がなければ、多くのCEOはすでに業界から姿を消していても不思議ではない。
たとえばAIGトップはまったく懲りていない。AIGは昨年、政府から700億ドルもの税金を投入された企業である。本来なら潰れていてもおかしくないが、CEOのロバ―ト・ベンモシュ氏は1050万ドルを手にしている。
前CEOのエドワード・リディ氏が反省して年収1ドルで仕事をしたのがウソのようである。「すでに交わした契約だから」という言い訳は、業界の中だけでしか通じない戯言である。というのも、彼らの年収は一般会社員の平均年収の318倍だからだ。30年前は30倍に過ぎなかった格差が広がるばかりである。
格差だけならまだしも、税金が使われているだけに、市民からの嫉妬と憤りは収まらない。金融機関でも製造業者でも、一般市民の声を無視したところで長期的な経営は立ち行かないことを理解すべきである。自分たちだけが旨味を感受できればいいというミーイズムがまん延している。
もう一つの機能不全は、アメリカ政府が肥大化した金融機関と金融市場を統制できなくなっている点である。それはリーマンショックの要因をみれば明らかだ。
堀田 佳男
1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学 大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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