
宇宙飛行士は投票に行けるのか?
投票制度
アメリカでは宇宙滞在中の宇宙飛行士が国政選挙に票を投じる例も珍しくなくなっている。日本人宇宙飛行士の投票は、どのように行われているのか。
司法ジャーナリスト 長嶺超輝=文 ライヴ・アート=図版作成
国際宇宙ステーションでの長期滞在ミッションを終え、日本人宇宙飛行士の若田光一氏が、7月末に地上へ帰還した。そのころ、若田氏の母国では、すでに衆議院が解散されており、総選挙へ向けて厳しい選挙合戦が繰り広げられる最中。
海外に住んでいる日本国籍者でも、それぞれの在住国の大使館などを通じ、有権者として日本の国政選挙に投票できる制度が整えられている。若田氏もヒューストンにいる限りは、この「在外選挙人」として、総選挙に一票を投じることができる。ただ、これから人類の宇宙開発が進み、宇宙空間に長期滞在する宇宙飛行士が増えるにつれ、彼らが「一票を投じたくても、投票所へ行けない有権者」となる事態も十分に考えられる。
アメリカでは、すでにコンピュータを利用した投票方法によって、宇宙滞在中の宇宙飛行士が国政選挙に票を投じる例も珍しくなくなっている。では、日本人宇宙飛行士の投票は、どのように行われているのか。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の広報によると、「宇宙飛行士の投票は検討したが、制度上できないことが判明したため、行ったことはない」とのこと。
たしかに、今回の若田氏のフライトが日本人で初めて宇宙に長期滞在した例に違いない。だが、解散総選挙は政局しだいで、いつ行われてもおかしくない。投票日が宇宙滞在期間と重なったとして、宇宙にいる有権者に投票機会を与えないことを正当化する法律上の理屈などない。
数だけを勘定すれば「たった一票」かもしれない。しかし「国民みんなで、世の中をよくしていく」という民主主義を標榜する国なら、たとえ一票でも決しておそろかにはできないはずなのだ。ましてや、文字通りの“グローバル”な視点を持った有権者の貴重な票を、国政に反映させるルートが用意さていない、という事実は問題だ。
日本大学法学部の岩井奉信教授(政治学)は「アメリカでは、世界各地に自国の軍隊が派遣されてきた歴史があった。そのため、外国に滞在する有権者にも配慮するシステムが構築されやすい土壌ができあがっているのだろう」と説明する。
また、日本では寝たきりの有権者など、ごく例外的にしか認められていない「郵便投票」も、欧米諸国では広く一般的に行われている。へんぴな田舎暮らしでも気軽に一票を投じられるそうだ。
郵便投票が実現しないのは、有権者本人でない者が不正な投票を行う可能性などが懸念されているから。それにしても「日本では、選挙制度の運営が真面目すぎるのではないか」と懸念する岩井教授。「不正を嫌がるあまり、投票の利便性が損なわれてはならない。コンビニなど生活に密着した場所でも投票できるよう、制度を柔軟に改めるべきだ」と主張する。
さらに、アメリカでは「インターネット投票」が実用化に向けて研究中であるという。岩井教授は、指紋認証などの個人識別技術が確立され、一般に普及していくことによって、いわゆる「ケータイ投票」が実現できると話す。そうなれば、投票率も向上し、有権者の意見を直接に集計する「国民投票」も容易になる。仮に実現すれば、日本の政治は大きく変わるだろうと、岩井教授は期待を寄せている。
民主主義社会を実践する中核であるはずの選挙制度。だが「一票の価値の格差」や「ネット選挙運動の禁止」など、旧態依然とした現状が放置されたままであり、問題点が多々見受けられる。
同様に、有権者が一票を投じるための「障壁」をなかなか取り除こうとしない国政の態度は、日本国の選挙システムの中途半端さを示す好例だと見られても、仕方のない状況にあるのは確かだ。
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