
100億円「ファブリーズ」マーケティングの新方程式
P&Gのファブリーズ・チームはファブリーズを、2億~3億円の独占商品から、100億円近くを売り上げる一大商品へと育て上げた。
流通科学大学学長 石井淳蔵=文 平良 徹=図版作成
P&Gは消臭剤ファブリーズを100億円近く売り上げる一大商品へと育て上げた。その背景には「ブランド・エクイティ拡張戦略」という巧みな展開戦略があったと筆者は説く。
なぜファブリーズは日本ではヒットしないと見られたか
PRESIDENT6月1日号(>>記事はこちら)から続いて、8月3日号、9月14日号(>>記事はこちら)と、ブランド戦略について検討してきた。最初は、日本企業が多用するコーポレートブランド・スタイルには限界があること、そしてメガブランドへの切り替えがこれからの成長のカギとなることを指摘した。8月3日号では、アメリア・エアハート効果を中心に市場カテゴリとブランド価値との強い絆づくりを狙うポジショニング戦略の有効性について検討した。そして、9月14日号では、カテゴリと強固な絆をつくったブランドがさらに成長するためのマネジメントのありようを探った。
さて、今回は、コーポレート・ブランド戦略とポジショニング戦略とのいわば中間にある戦略、ブランド・エクイティの拡張戦略を検討したい。ケースは、P&Gファブリーズである。
1998年に、P&G社は、布製品用スプレー・タイプ消臭剤としてファブリーズを日本市場に導入した。ファブリーズは、それを衣類にスプレーすることで、布にしみついた臭いが消えるという効能をうたってアメリカではヒットした。だが、日本ではうまくいかないのでは、と考えられた。というのは、アメリカの生活スタイルと日本のそれとは、かなり違っているからだ。
自宅で靴を履いたまま生活するアメリカ人と、靴を脱いで生活する日本人。大きい犬を自宅で飼うアメリカ人と、その習慣があまりない日本人。カーペットの上で生活するアメリカ人と畳の上で生活する日本人。こうした生活スタイルの違いを反映して、アメリカ人に比べて、日本人は生活の中で布製品の臭いに対する敏感さが乏しく、その分、ファブリーズを使う機会は限定的ではないかと思われた。
さらに日本では、室内用の消臭用製品としては、置き型消臭剤が一般的で、臭いをとるためにスプレーをかけるという習慣自体が馴染みのないものだった。つまり、それまでの常識に基づき、日本における衣料用消臭スプレーの市場は、限定的なものになると思われた。
ところが、P&Gは大胆なマーケティング予算の投入を行った。車の中の臭いやソファに付いたペットの臭い、カーテンについた焼き肉の臭いなどをファブリーズを使ってとるという、限定的だが非常にわかりやすい内容のテレビ広告を大量に流した。
「商品が市場での代名詞」となるには
発売当初の「ファブリーズ」のターゲットは、喫煙者やペットがいる家庭、車の臭いが気になる消費者、「布の臭いを消したい」というニーズをあらかじめ持っていた消費者であった。P&Gのファブリーズのブランドチームは、まずそうした消費者に対して、「洗いにくい布の臭いをとる」という効能を徹底してアピールしていった。
しかし、そのターゲットである「布の臭いを消したいというニーズをあらかじめ持っている消費者」は、先に述べたような日本人の生活を考えると多くはない。実際、ファブリーズに関心を示したのは一部の消費者にすぎなかった。
石井 淳蔵
流通科学大学学長
いしい・じゅんぞう●1947年、大阪府生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。神戸大学大学院経営学研究科教授などを経て、2008年4月より、流通科学大学学長。専攻はマーケティング、流通システム論。著書に『ブランド』『マーケティングの神話』『営業が変わる』などがある。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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