
米経済回復の兆し―カリフォルニアで起業数3割増
堀田佳男の「オバマの通信簿」【21】
「オバマ政権になって、昨年よりも多くの企業が新たに立ちあげられています」不況下に多くの新会社がスタートしているという事実に、一瞬耳を疑った。
文=堀田佳男
「オバマ政権になって、昨年よりも多くの企業が新たに立ちあげられています」
アメリカ取材中に聴いた「ニュース」だった。不況下に多くの新会社がスタートしているという事実に、一瞬耳を疑った。
景気はゆるやかな回復基調にあるとはいえ、起業数が増えているとの話はほとんど聞かない。アメリカの失業率は10%に手がとどく高率で、工場稼働率はいまだに7割程度でしかない。
調べてみると全米レベルの話ではなく、地域限定で活況を呈している州があった。カリフォルニア州である。09年1四半期の起業数は476社、2四半期になると53%も伸びて729社が新たな企業としてスタートしていた。08年比でも3割以上もアップしている。
ワシントンにある全米ベンチャー・キャピタル協会のマイク・ヒーセン会長は、その背景として投資家が新しい企業に投資する動きは不況に大きく左右されないと語る。
「ベンチャー・キャピタル(以下VC)はつねにアメリカ産業界に新しい空間を作り出してきたという自負があります。不況で投資の総額は減っていますが、起業家を育てていこうという動きは止まりません。マイクロソフトやグーグル、インテル、eBayなどはすべてVCの資金で育ったのです」
しかもIT業界が集まるシリコンバレー周辺だけではない。同州南部のロサンゼルス周辺やサンディエゴ周辺でも前年比で起業数はのびている。特にバイオメディカル、ソフトウェア、クリーンエネルギーの3分野の伸びが目立つ。
どれほどの資金がVCから流れているのだろうか。サンディエゴ周辺だけでも、1四半期に9060万ドルの資金が新しい企業に流れ込んでいた。それが2四半期になると90%増の1億7200万ドルにアップしている。
今年創業された企業の中には10億円以上もの投資を受けたところもある。サンフランシスコに本社を置くバイオテク企業の「スパインガード」社は、背骨の手術に使用する医療機器の特許をもつ企業で、4月に1100万ドルの資金が集まり、9月にはさらに400万ドルが追加投資された。
VCは近年の不況でも、資金の枯渇というより有望な投資先の減少に直面していた。絶えず投資先を物色しているのが実情で、「スパインガード」のようなバイオテク分野で、かつ多大な需要が望める企業には多額の資金が集まる。
オバマ政権の誕生がVCの勢いを強める直接の理由になったわけではないが、カリフォルニア州のようなリベラルな土地では、共和党のブッシュ政権とは確実に違う風が吹き始めている。前出のヒーセン会長が説明する。
「オバマ大統領はテクノロジーの重要性とさらなる改革がアメリカを前へ進ませる原動力になると述べています。クリーンエネルギー分野での新種バッテリーや電力分野のスマートメーター、バイオテクノロジー分野でのさまざまな改革など、大統領は新しいテクノロジーとイノベーションに対して多大な敬意を払っています。GMやフォードが過去何十年もかかってできなかったことでも、新しい企業ならできると信じているのです」
堀田 佳男
1957年東京生まれ。早稲田大学 文学部を卒業後、ワシントンDCにあるアメリカン大学 大学院国際関係課程修了。大学院在学中に読売新聞ワシントン支局で1年間助手を務める。卒業後、米情報調査会社に勤務。アメリカの日刊紙の日本語ダイジェストの執筆・編集に携わる。永住権取得後、1990年に会社を辞して独立。以来、ジャーナリストとして政治、経済、社会問題など幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。25年の滞米生活後、2007年春帰国。
著書に『大統領はカネで買えるか?』(角川新書)『大統領のつくりかた』(プレスプラン)など。
武田薬品、富士通、資生堂……。経営者の知られざる素顔を描く。
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