解決!法律塾
2009年 11月 5日

ホテルのフロントに預けた荷物が紛失

貴重品

荷物を預けている間に、中身が壊れてしまったり、貴重品が紛失したりなどした場合、宿泊施設は、損害賠償(弁償)の責任を負わなければならない。

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いよいよ、秋の行楽シーズンの到来である。家族や仲間と泊まりがけで遊びに出かける機会には、ホテルや旅館などの宿泊施設やレストランのクロークなどに、手荷物を預けることもあるだろう。

荷物を預けている間に、中身が壊れてしまったり、貴重品が紛失したりなどした場合、その紛失や破損が「わざと」行われていようと「うっかり」生じた不幸な結果であろうと、宿泊施設は、損害賠償(弁償)の責任を負わなければならない。

宿泊施設が責任を免れるケースがあるとすれば、地震や水害など「不可抗力」が原因で手荷物が損害を受けた場合であると、商法594条一項は定める。

「高価品の明告」があったかどうか争われた裁判例
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「高価品の明告」があったかどうか争われた裁判例

その一方で、隣の595条には、現金や有価証券のほか、「高価品」については、宿泊客がその種類や値段を宿泊施設に告げたうえで預けた場合に限り、紛失や破損について責任を問えると書かれているのである。つまり、財布を預けるなら、少なくとも、およそいくら入っているか申告しておかない限りは責任を問えないということだ。

ただ、貴重品の値段まで申告して預ける宿泊客が、実際にどれほどいるだろう。そもそも「高価品」とは、具体的に何円以上の品物を指すのだろうか。

民事トラブルの解決に精通する久保内統弁護士は、「金額などの厳密な基準は特にない。ただ、595条の文言が『貨幣、有価証券其他ノ高価品』とあることから、手形などの証券類に準ずる程度の、市場での換価価値が高い品物を『高価品』として特別扱いにしていると考えられる」と説明する。

具体的には、宝石や貴金属、貴重な骨董品などが考えられる。

とはいえ、最高裁判所の判例など、客観的な基準が示されているわけではない。そういえば、貴重品の紛失や破損をめぐり、ホテルや旅館を相手取って宿泊客が裁判を起こしたという話は、ほとんど聞かないではないか。銭湯やレストランなどでは、貴重品は利用客が携帯・管理するようにして、店側は預からない扱いにしている場合も多い。

一方、ホテルの手荷物預かり問題で判例がほぼ皆無である現状につき、前出の久保内弁護士は、「ホテルという業態にとって、宿泊客との間のトラブルで裁判にまで至ったという評判は、イメージ戦略的に好ましくないとの意識がある」と話す。

よって、前述した商法の一連の免責規定は「絵に描いた餅」になっていることも多いというのが現状だ。ホテルは、客に対して、法律の原則論を持ち出すことを避ける。客に不快な思いをさせて帰すわけにはいかないとして、たとえ客観的に非がなかろうと、ホテルの従業員は頭を下げ、償いの額を提示するのが一般的な対応のようだ。

この問題に限らず、国内のホテル業界は、ほとんど言いがかりのようなクレームでも、宿泊客からの要求を何でも受ける傾向にある。「お客様第一」の対応がゆきすぎて、毅然とした態度を取ることをあきらめ、宿泊料を踏み倒される被害も多い。

踏み倒す輩も、そうしたホテル従業員の弱腰な姿勢を知ったうえで、無銭宿泊のターゲットとして狙い撃ちし、理不尽な要求を重ねているのである。

「ホテルのオーナー、経営者は、シビアにものを考えるが、現に宿泊客と接している現場が言うことを聞かないことが少なくない。要求を断ったなら客が減ってしまうと現場が訴えれば、最終的には経営者サイドが折れることもある」(久保内弁護士)

諸外国のホテルでは、クレジットカードなどで身分を証明できなければ、予約がある客であろうと宿泊を断る場合すらある。宿泊客に尽くすことを第一に考える日本流の接客文化とは対照的だといえるだろう。

プロフィール

長嶺 超輝

司法ジャーナリスト

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