お金・給料の新常識
2009年 11月 23日

なぜ上質な紳士服がたった1000円で買えるのか

「わが家のサイフ」の小さな大疑問

一見、損と思える販売でも追加コストで考えると十分な利益をもたらす。

店も顧客もメリットを享受

追加コストでみた紳士服安売りのカラクリ
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追加コストでみた紳士服安売りのカラクリ

紳士服量販店では1着4万~5万円するスーツを2着買うと、2着目が半額とか、9800円、ときには1000円という値段になることがある。

どうしてそんなに安く売れるのだろうか。「よほど原価が安いのだろう」とか「もともと定価が高すぎるのではないか」と疑問に思うかもしれないが、実は経済学の原則からすると実に合理的な商法なのだ。

そもそも、紳士服の小売りは非常に販売効率が悪い。一定の広さの売り場が必要で、サイズ・色・柄など製品の種類をたくさん用意したうえに、試着やら裾上げやら、売るまでに店員の手間がかかる。しかも、平日の昼間はほとんど来客がないのに、店員を置いて店を開けておかなければならない。

服自体の製造原価はさほど高くはないと思われる。しかし、売るための店舗家賃、人件費、光熱費、宣伝費などが相当かかる。そのため、1着4万円でも利益率は意外と低いはずなのだ。ところが一度に2着以上売れるとなると、話は全く違ってくる。実は4万円で売る1着目より、9800円で売る2着目のほうが多くの利益を会社にもたらすのである。

実は経済学の「追加コスト」の考え方で、そのことを説明できる。追加コストとは商品を余分に作ったり、売ったりするときに追加で必要となるコストのことだ。専門的には「限界費用」と呼ばれている。

例えば、ディナーの平均単価が3000円というちょっとおしゃれなレストランが、980円でランチを始めるとしよう。ディナーと同じ質の食材を使い、家賃、人件費、光熱費、宣伝費などの「平均コスト」を計算すると、980円では赤字になる。しかし、この場合、すべてのコストを含めた平均コストで考えるより、「追加コスト」で考えるべきなのだ。

なぜなら、家賃や光熱費の基本料金などランチの営業をしなくてもかかってくる費用は差し引くべきだからだ。また、人件費もアルバイトを除き、朝から仕込みで働くシェフの給与は含まれない。すると、ランチでも十分な利益が出る。昼や夜に比べて顧客も早く食べ終わるから稼働率が高く、おいしいと評判になれば、夜の顧客も増えるかもしれない。

追加コストで考えると十分利益がとれる
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追加コストで考えると十分利益がとれる

このように一見、損と思える販売でも追加コストで考えると十分な利益をもたらす。紳士服の2着目安売り商法もこれと全く同じだ。同時に2着を売ると、店側にとって2着目の追加コストは仕入れコストと裾上げの手間が増えるぐらいだ。9800円で売っても、そのほうが1着目の4万円より利益が出る。

また、5万円の紳士服にクーポン券持参で1万円の値引きをする一方で、クーポン券を使わず同時に2着買うと、その2着目は1000円という“目玉価格”を提示することもある。でも、もともと店側は1着目を4万円で売る覚悟をしていたわけで、実質的な2着目の売値は2着合計の5万1000円との差額である1万1000円。追加コストで考えると1着目よりも大きな利幅が稼げるのだ。

とはいえ、顧客が損するというわけではない。顧客が物を買うときに代金と別にかかる時間や労力などを「取引コスト」と呼ぶが、同時に買えば2着目の取引コストは不要になる。そのうえ、4万円と同等の品質の服を1万円以下で買えるのだから、お得だ。つまり顧客と店の双方にメリットがあるのだ。

>>「『わが家のサイフ』の小さな大疑問」は10回連載。目次はこちら

プロフィール

吉本 佳生

エコノミスト

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