達人のテクニック
2009年 11月 27日

事例やエピソードの引用がうまくできない

書けない、伝わらない……「7つの悩み」克服法

せっかくオリジナリティのある本論であっても、陳腐な事例やエピソードが入ると、それにつられて陳腐化します。

作家●藤原智美

1955年、福岡県生まれ。『王を撃て』で小説家デビュー。92年、『運転士』で芥川賞受賞。『「家をつくる」ということ』がベストセラーに。『暴走老人!』『検索バカ』では現代社会の問題の本質を説く。

 

明治大学教授●齋藤 孝

1960年、静岡県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書多数。近著に『坐る力』『1分で大切なことを伝える技術』『若いうちに読みたい太宰治』など。

▼藤原さんからのアドバイス

つまらない事例やエピソードなら、無理をして引用しないほうがいいと思います。せっかくオリジナリティのある本論であっても、陳腐な事例やエピソードが入ると、それにつられて陳腐化します。

それでは、どのような事例やエピソードが魅力的なのか。私が心がけているのは具体性です。たとえば消防士が登場する小説を書くためにインタビューをするとします。そのときも、「なぜ消防士になろうと思ったのか」といった内面的な話は聞きません。そうではなく、消防服を着たときはどのような感じがするのか、ホースの重さはどうかといったディテールに徹底的にこだわります。事例やエピソードは、具体的に書くほどリアリティが出て、読み手に響くのです。

ディテールに読み手が知らない事実が含まれていれば、さらに効果的です。たとえば大工の隠語で柱に小さな傷をつけることを“ケシキをつける”と呼ぶそうですが、そのような知識が入っていれば、読者を惹きつける道具になります。

むしろ問題は、そうした事例やエピソードをどこから引っ張ってくるかでしょう。文献から探す方法もありますが、読み手が知らない情報ほどおもしろいということを考えると、やはり現場で拾ってきた事例やエピソードに軍配が上がります。ビジネス文書でも、新聞に載っている事例より、取引先で聞いてきた話を入れ込んだほうが説得力が増すはずです。

そこでおすすめしたいのが、メモ帳の活用です。最近は仕入れてきた情報をパソコンで管理する人もいますが、あまり感心しません。ファイルで整理すれば必要なときに取り出しやすいと考えがちですが、いったん目に見えないところに保存してしまうと、「あの事例がこの文章で使える」という発想につながりにくくなります。できればメモ帳やノートを使って手書きし、ノートを開くたびに前に書きとめたメモが目に触れるような状況をつくっておくべきでしょう。

▼齋藤さんからのアドバイス

事例やエピソードの多用には、注意が必要です。事例やエピソードは、本論の説得力を高めるために用いるものであり、じつは事例やエピソードが一つも入っていなくても、ビジネス文書というのは成立するのです。

裏を返すと、事例やエピソードを多用しなければ説得力がない文章は、それだけ本論が脆弱で、考えが練られていないといえます。考えが練られていない文章は間違った意思決定につながり、結果的に相手に損害を与えることになります。事例やエピソードに依存した文章を書く人は、口舌の徒にすぎません。その場しのぎにならないように、まずは揺るぎない本論を立て、効果的な事例を一つ二つ添える程度にしたほうが、本当の意味で説得力を持つはずです。

私の場合、集めた事例やエピソードの約7割をどこかの文章で使っています。無駄が比較的少ないのは、アウトプットを意識しながら情報収集をしているからです。付箋を貼る時点で、「これはあのテーマに使えるかもしれない」と直感的に理解しているわけです。その意味では一つのアウトプットしか意識しないのは非効率です。情報を捉えるための網が小さくなって、使えるはずの事例やエピソードを見逃す心配があります。複数のテーマを同時並行して進めたほうが、役に立つネタを拾いやすくなるでしょう。

事例はおもに雑誌から拾います。インターネットでも収集できるかもしれませんが、総じて雑誌のほうが情報の精度が高く、取材や編集に手をかけてあるので内容も掘り下げられています。気になった記事には付箋を貼ってコピーし、まとめておきます。ある程度の量が集まれば、それがそのままネタ帳になります。

>>「書けない、伝わらない……『7つの悩み』克服法」の目次はこちら

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