
怒りの感情をコントロールする法
交渉でカッとなったりムッとしたりして後悔しないためには
議論がヒートアップしてきたとき、互いに冷静さを保つためには、どんな態度をとればよいのだろうか。
文=スーザン・ハックレー 翻訳・ディプロマット
相手が挑発的な態度をとったときにはつい感情的になりがちだ。議論がヒートアップしてきたとき、互いに冷静さを保つためには、どんな態度をとればよいのだろうか。
強い感情のプレッシャーがあるなかで交渉することは、ネゴシエーターにとって最も厳しい挑戦の1つかもしれない。誰かに不快なことを言われたら、言い返したくなるはずだ。激しい感情――悔しさ、怒り、失望、不安、恥ずかしさなど――に襲われると、気をしずめて交渉を続けることなど不可能ではないかと思えるときがある。
医療機器メーカーのビジネス開発担当副社長、マークは、香港の販売代理店の販売担当副社長、フランシスと、販売契約の詳細について何カ月もかけて交渉してきた。マークは最終合意がまとまることを期待して、シカゴのオフィスにフランシスを迎える。ところが、最初の挨拶がすむと、フランシスは売り上げからの代理店の取り分を10%上げてくれと要求する。合意ずみと思っていた問題が蒸し返されたのだ。
マークはショックを受けて、こう言い返す。「われわれはすでにあらゆる問題で合意しており、私はそれを上司に報告している。それなのに、あなたはもっと搾り取りたいというのか。そんなことが受け入れられるはずがない」。マークはミーティングを取りやめにしたい気分だが、その交渉を救済できるかどうかを素早く、しかも理性的に判断する必要があることも承知している。
われわれの多くがそうだが、マークもまた、交渉の場で自分の感情に対処する具体的な策など持ち合わせてはいない。感情の領域は複雑だから、それは無理からぬことだ。
ハーバード法律大学院交渉プログラムの研究者、ロジャー・フィッシャーとダニエル・シャピロは、新著『Beyond Reason: Using Emotions as You Negotiate(理性を超えて:交渉のなかで感情を利用する)』で、交渉のなかで感情にうまく対処するための新しい枠組みを打ち出している。「人は考えを持つのをやめることができないように、感情を持つこともやめることはできない。なすべきは、交渉相手のなかに、また自分自身のなかに有益な感情を生み出せるようにすることだ」。
『Beyond Reason』はネゴシエーターに、交渉でとくに重要と著者がみなす5つの中核的要素――賞賛、親和、自主性、地位、役割――に関心を集中するよう勧めている。
「これらの中核的要素を使って交渉の席の感情的雰囲気を理解し――おそらくはさらに重要なこととして――それを改善することができる」と、シャピロは言う。「より楽々と、より効果的に交渉できるようになる」。
(1)賞賛を示す
『Beyond Reason』でフィッシャーとシャピロは、効果的な賞賛には、3つのステップが必要だと述べている。(1)相手の視点を理解する、(2)その視点の長所を見つける、(3)理解したということを言葉と行動で相手に伝える、の3つである。
賞賛を示すというのは、感情が高ぶっているときの行動としては常識と正反対のように見えるかもしれない。自分の感情を傷つけた相手になぜ賞賛を示す必要があるのだろう。ずばり言うと、相手の視点を理解し、賞賛すれば、相手のなかに協力しようという気持ちが生まれるからだ。あなたが自分の主張を聞いてくれ、高く評価してくれたと感じた人間は、あなたに協力する可能性が高くなる。「賞賛することは屈服することではない」と、シャピロは述べている。「相手の視点を賞賛することで、相手の考えとその考えがなぜばかげたものではないのかを理解していることを相手に知らせるわけだ。これによって、あなた自身やあなたの考えに対する相手の抵抗を減らすことができる。また、相手が抵抗姿勢をとり続けたとしても、相手を動かすのに役立つ貴重な情報を得ることができる」と、シャピロは語っている。
(2)親和関係を築く
フィッシャーとシャピロは、「親和関係を築く機会を見過ごし」「人と人を近づける感情的つながり」を軽視するという一般的な傾向について、ネゴシエーターに注意を促している。
「あなたが交渉している相手は単に組織の一部というだけの存在ではないことを忘れてはならない」とシャピロは言う。「人間はみな個人の物語を持っており、それを通じて互いにつながることができる」。
交渉を進めるなかで、あなたと相手の共通点を見つけよう。もしくは新しい共通点をつくるよう努力しよう。相手の家族や仕事や趣味について尋ねることで(「お子さんは何人ですか」「週末もよく仕事をなさるんですか」「山のそばにお住まいのようですが、スキーはお好きですか」等々)、感情的つながりを見つけてもよいだろう。
ネゴシエーターは親和関係を築くことで信頼を高め、緊張を和らげる。しかし、親和関係を利用してあなたにつけこむこともあるので、用心する必要がある。
スーザン・ハックレー
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